天文ガイド 惑星の近況 2017年11月号 (No.212)

堀川邦昭


土星は8月25日に留、9月12日に東矩となり、へびつかい座を順行しています。 日没後の南天低く見えていますが、すぐに高度が下がってしまうので、観測は薄明中が中心となります。 木星は10月27日の合に向かっておとめ座を順行しています。 日没時の高度は20°を下回り、観測はもう無理でしょう。

ここでは8月から9月前半の惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

7月下旬に大赤斑(GRS)後部に出現した暗部は、周辺の様相を一変させてしまいました。 大きく盛り上がった暗部は大赤斑を後方から包み込んでアーチとなり、さらにストリーク(dark streak)となって前方の南熱帯(STrZ)を著しく暗化させています。 ストリークの先端は永続白斑BAのすぐ後方のII=170°付近に達しています。 普段見られる紐状のストリークとは異なり、今回はボコボコとした大きな塊りが連なって、STrZの南部にまで広がっていて、大規模な活動であることがうかがわれます。 一方、これまで暗い南赤道縞(SEB)の一部として見えていたSEB南縁からSTrZ北部にかけては、逆に明るい領域となっていて、以前とは明暗パターンが逆になってしまったように見えます。 このような、大赤斑前方の明暗が逆転する現象を南熱帯ディスロケーション(STr. Dislocation)と呼びます。 ディスロケーションは、永続白斑が3つあった1970年代後半から1980年代を中心にしばしば発生しましたが、近年では珍しい現象です。 前回は2011年に見られました。 大赤斑後部の暗部は今もまだ明瞭で、ストリークの活動はまだしばらく続くと思われます。 来シーズンの初めに大赤斑前方がどのような状況になっているか、注意したいものです。 なお、大赤斑本体は暗部の活動にもかかわらず、赤みの強い状態を保っていて、変化は見られません。 経度はII=278°で、後退運動は止まっています。

mid-SEB outbreakは全体として衰えつつも、第2発生源を中心に活動を続けています。 第2発生源は現在II=20°付近にあると思われますが、白斑は不明瞭で位置を特定するのが困難になっています。 第1発生源は6月後半に急速に衰えたものの、まだしぶとく活動を続けていて、II=130°前後で小規模な白雲活動が見られます。 両発生源の間の区間でも白雲の活動が続いていますが、以前と比べるとSEB北部に偏在し、乱れも小さくなっています。 大赤斑の後方のSEBもかなり明暗が見られますが、8月後半以降はoutbreakなのか、post-GRS disturbanceによるものか、よくわからなくなっています。

南南温帯縞(SSTB)に見られる9個の高気圧性小白斑(AWO)のうち、A6〜A3の6個が約100°区間に密集しています。 8月以降、その集団の中でA1とA2が異常に接近しているのが注目されます。 両者の間隔は9月15日で11°で、8月からずっと10°前後を維持しています。 昨年11月に起きたA8とA0の合体では、間隔が10°を切ると急速に接近して合体してしまいました。 そのため、A1とA2は予断を許さない状況にあります。 両白斑は現在II=320°付近にあり、ひと月ほどで大赤斑の南を通過します。 今回はA8/A0の時のような、BAを交えた三重会合にはなりませんが、来シーズン初めにどうなっているか注目されます。

今シーズンの木星面の動画

月惑星研究会に報告していただいた画像を使って、今シーズンの木星面の動画を作りました。 動画の各コマは2日間の画像から作成した展開図(Cylindrical map)で構成され、昨年12月末から今年7月半ばまでの200日間の木星面を20秒で見ることができます。 mid-SEB outbreakの発達や北赤道縞(NEB)北部の白斑の合体などが手に取るようにわかります。 興味のある方は月惑星研究会のWebサイト(http://alpo-j.asahikawa-med.ac.jp/kk17/j170818r.htm)でご覧ください。

[図1] 大赤斑前方に発達した暗部
大赤斑後部のアーチから前方のSTrZに発達する暗部。ディスロケーションの様相を呈している。左端のBA付近まで広がっている。
[図2] mid-SEB outbreakの活動
まだ活動的だが、白雲はSEB北部に寄り、乱れも小さい。NEB北縁の白斑はWSZ。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

土星

土星は環が大きく開いて見事です。 環の傾きは来月に+27.0°となり、極大を迎えます。 特に異常は認められませんが、良く見るとカシニの空隙を通して、土星の南極地方が見えています。 どの画像でも真っ青な色で、環に隠された土星の冬が極寒の世界であることをうかがわせています。

土星面は静かで大きな変化はありません。 クリーム色の赤道帯(EZ)と赤茶色の北赤道縞(NEB)南部を除くと、北極地方までは薄緑色に覆われていますが、今月は北温帯縞(NTB)に赤みが戻ったようです。

NEB北部の白斑は8月中もいくつかの画像に捉えられています。 経度を測定したところすべてWS4で、24日にIII=169°でした。 NEB北部の白斑は1日当たり-6.9°で前進しているので、9月半ばにはIII=10°付近に移動しているはずです。 NTB南組織の白斑は8月以降、観測できていません。 また、いくつかの画像で、EZ中央部に形の崩れた明部が見られますが、経度はバラバラなので、別々の模様と思われます。

[図3] 環が大きく開いた土星
どちらの画像でもNEB北部の白斑(WS4)が捉えられている。カシニの空隙から南極地方が顔をのぞかせている。撮像:(左)ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、35cm)、(右)堀内直氏(京都府、40cm)

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