夜半過ぎの南天には、てんびん座の木星を先頭に、いて座の土星、火星の3大惑星が並ぶようになりました。 木星は5月9日に衝を控え、土星は4月18日に留となり6月に衝を、火星は7月に大接近を迎えます。 今度、しばらくの間、惑星観測者は忙しい毎日を送ることになりそうです。
ここでは4月半ばから5月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。
木星面では大赤斑(GRS)と南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)との会合が続いています。 3月末に大赤斑の前方に白雲が現れ、攪乱が大赤斑の前方へ抜ける兆候が見られましたが、その後、拡散消失して空振りに終わってしまいました。 数日から数週間で攪乱が大赤斑の前方にジャンプしたと記録が残っている20世紀初頭とは、大赤斑の大きさや循環が大きく変わっているので、同じ現象にはならないのかもしれません。
一方、攪乱の後端は着々と前進を続けています。 そのため、攪乱はしだいに短くなっていて、4月末の長さは12°と、大赤斑よりも短くなってしまいました。 後端がこのペースで前進すると、5月末には前端に追いついてしまいます。 そうなれば、SEB南縁とSTB北縁の流れが結合している循環気流(Circulating Current)が解消して、攪乱が消滅してしまうかもしれません。
大赤斑はオレンジ色でとても明瞭です。 経度はII=289°でほとんど動いていません。 90日周期でふらふらと動く振動運動の前進期に入ったので、長期に渡るゆっくりとした後退運動が相殺されているようです。 ただし、昨年と比べると後退運動のスピードは少し小さくなっているようで、南熱帯攪乱の影響によるものと思われます。
永続白斑BAはII=40°にあります。 少し小ぶりで薄茶色に濁っていますが、周囲に暗い縁取りができたため、明瞭に見ることができます。 後方にはSTB Ghostが暗化した南温帯縞(STB)の暗部が伸びています。 長さは約60°と少し長くなりました。 また、南北を南熱帯紐(STrB)と南南温帯縞(SSTB)の北組織で縁取られているため、異様に幅広く見えます。 よく見るとSTBの暗部は前後2つの部分に分かれていて、前半は暗化したSTB Ghost、後半は南温帯(STZ)の暗部で構成されているようです。 暗部の南隣のSSTBは淡化して細い南北組織だけが残っています。 この区間には高気圧性小白斑(AWO)が6個(経度順にA6/A7/A8/A1/A2/A3)並んでいて、淡化したSSTBの中でも明るく見えます。
BA後方の暗部を除くと、STBはほぼ淡化消失していて、代わりにSTrBが全周を取り巻いています。 淡化したSTBの中にはII=220°付近にSTB Spectreと呼ばれるフィラメント領域があります。 現在も淡く、高解像度の画像で細長い輪郭が認められるのみです。 1月に大赤斑の南を通過すると、STB Spectreは急加速し、現在は1日当たり-0.7°というこの領域では異常なスピードで前進を続けています。 またSTB Spectre後端と大赤斑の間が薄暗くなり、およそ40°に渡ってベルト状の暗部に成長しつつあります。
[図1] 縮小する南熱帯攪乱 |
最盛期だった2月との比較。攪乱は当時の半分以下、大赤斑よりも短くなってしまった。撮像:岩政隆一氏(神奈川県、35cm) |
4月7日から5月3日までの火星の様子を報告します。 火星は、夜明け前に南中を過ぎるようになりました。 Lsは170°になり、南半球はあとわずかで春分になる所までやってきました。
この時期になると南極冠がいつ見えてくるのかがに気になります。 突然見えるのではなく、南極フードの下に姿が見えるようになりますが、決まって雲の下のため、その様子はなかなかつかめません。 今回は4月17日にダミアン・ピーチ(Damian Peach)氏がフードの下に鮮明なエッジの南極冠の姿を記録しました。 しかし、そのほかの観測者からは決定的な画像は得られませんでした。
4月29日になってようやく南極冠だと思われる姿が記録されました。 それまで、極にあった明るく白い雲の縁が鮮明になり、極冠を取り巻く暗いバンドがはっきりと確認されてきました。 いよいよこれで極冠が観測できるようになりました(図2)。
小規模なダストストームは2回起こりました。 4月9日にHellasの北西部に発生しました。熊森氏(大阪府)が撮影に成功しています(図3)。 安達も眼視でいつもより明るい状態を記録しました。 また、4月22日にはAusonaに2つの光斑ができましたがこれもダストストームでした。 いずれのダストストームも翌日には形が分からなくなり、付近一帯をダストのベールで被いました。
今月は4月13日ごろにSyrtis Major付近や4月23日以降Ausonia一帯が広くダストベールに覆われるなど、暗色模様が普段よりも淡く見える状況になりました。 はっきりしたダストストームではなくても、強い風によって砂が巻き上げられ、ダストベールになることが頻繁に起こっていることが、画像の進歩によってよくわかるようになっています。
これからますます目が離せない状態になっていくことでしょう。
[図2] クリアな姿を見せた南極冠 |
撮像:マーク・ロンズデール氏(オーストラリア、35cm) |
[図3] Hellas北西部のダストストーム |
Hellasの右横にある斜めの白い線が拡散中のダストストーム。撮像:熊森照明氏(大阪府、35p) |
土星では高緯度に明るい白斑が出現して、にわかに観測者の注目が集まっています。 白斑は北極を取り巻く暗い領域の外縁に接した北緯68°にあって、体系IIIに対して1日当たり-11.6°というものすごいスピードで前進を続けていて、北緯60〜70°を流れるジェットストリームの影響下にあるようです。 4月30日の経度はIII=309°でした。
3月末の発生からひと月以上経過していますが、白斑は現在も明瞭です。 各波長での画像を比較すると、白斑は連続光と赤色光で最も明るく、青と緑では少し明るさが劣るようです。 また、赤外光でもそれほど目立ちません。
土星面では他にも白斑や明部が観測されています。 しかし、前述の白斑に比べるとコントラストが低く、追跡するには至っていません。
[図4] 土星の白斑 |
北極を取り巻く暗い領域のすぐ外側に白斑が見られる。撮像:堀内直氏(京都府、40cm) |
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