天文ガイド 惑星の近況 2018年8月号 (No.221)

堀川邦昭、安達誠


梅雨を迎えていますが、夜空では木星、土星、火星の3大惑星がそろい踏みしています。 木星は衝を過ぎてしまいましたが、火星はこれから大接近へと向かい、注目度がアップします。 間にはさまれた土星は、注目度が今ひとつといった感じです。

ここでは5月半ばから6月初めにかけての惑星面についてまとめます。 この記事中の日時は、すべて世界時(UT)となっています。

木星

大赤斑(GRS)と会合中の南熱帯攪乱(S. Tropical Disturbance)は、予想どおり5月下旬に攪乱後端の暗柱が前端に追いつくという異常事態となりました。 攪乱は細く狭くなって、1本の暗柱のようになり、しだいに淡くなり始めて、6月には確認することができなくなってしまいました。 大赤斑前方では、南熱帯紐(STrB)が北に下がって少し乱れていますが、攪乱が再生する兆候は見られません。 南熱帯攪乱は消滅してしまったのでしょうか? 予想の範囲とはいえ、何か肩透かしを食ったような気がします。

南南温帯縞(SSTB)では高気圧性の小白斑(AWO)同士の合体が起こりました。 合体したのは9個のAWOのうちA6とA7で、25〜26日にII=0°付近でA7が南からA6が北から反時計回りに回りながら合体しました。 4月末の時点で両者は20°離れていて、ノーマークだったので、意表をつかれた感じです。 合体の直接の原因はA7が永続白斑BAの南を通過した後に急加速したためで、加速後のドリフトは1日当たり-1.6°(自転周期換算で9h54m35s)で、この緯度としては異常な値を示しています。

AWO同士の合体は、2016年11月のA8とA0以来のことです。 主要なAWOの合体は、大赤斑−永続白斑BA−SSTB AWOの三重会合の後に起こる傾向がありましたが、今回はBA−AWOのみで大赤斑は関係しませんでした。 合体したA6/A7は、以前よりも大きく明るく見えています。 今後、後続のAWOが相次いでBAの南を通過するので、ドリフトの変化に注意が必要です。

A6とA7の合体とほぼ同時に、北半球の北北温帯(NNTZ)でも高気圧性の白斑同士の合体が起こりました。 一方の白斑はNN-WS-4と呼ばれる長命な白斑で、もう一方は今シーズン新たに発生しました。 両者は今年2月に異常接近しましたが一度離れ、5月になって再び接近し、24〜25日にかけてII=230°付近で合体、26日にはひとつの白斑となってしまいました。 こちらもA6/A7と同様、以前より大きく明るい白斑になっています。

今回の2件の合体は、ジュノーの近木点通過(PJ13)のタイミングで起こったのですが、軌道が大きく離れていて、観測できなかったのは残念です。

[図1] 消失する南熱帯攪乱
5月には明瞭だった大赤斑後部の暗部が、6月にはほぼ消失してしまった。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)、アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)、熊森照明氏(大阪府、35cm)
[図2] SSTBのA6とA7の合体
BA通過後のA7が少し南へ移動し、A6と互いに回り込むように合体しているのがわかる。
[図3] NNTZの白斑の合体
▲のところに白斑がある。SSTBとは逆の時計回りに回りながら合体している。

火星

今月は大規模なダストストームが発生し、火星面の状況を一変させつつあります。 発生から半月ほど経過し、全球に広がる様相を呈しています。 今回の報告はその途中経過となります。

火星面はLsが190°を越え、南半球は春を迎えています。 5月は南極冠がすっかり晴れ渡り、白く明るい雪原を見せるようになりました。 視直径も増して誰もが楽しめる状態になっています。 ところが、5月30日の赤外画像で、Mare Acidariumの東に光斑が記録されたのを皮切りに、翌31日には東風に乗って発達中のダストストームが、カラーで鮮明に捉えられました(図4)。

発生初期は、日本から見えない位置にありましたが、6月4日には進行中のダストストームを鮮明に捉えることができるようになりました。 この時点ですでにChryseを覆い、Ganges付近まで進んでいて、濃淡が激しく大きなムラがありました。 6日にはXantheもすっかり覆われ、南半球に侵入した様子が次々に報告されてきました。

ダストストームの濃い部分はその後も西進し、北半球を中心に広い範囲を覆うようになり(図5)、地表を這うような姿が見られるようになってきました。 7日にはMrinerisに侵入し、谷に沿って線状になった姿が記録されています。 2005年と規模は違いますが、同じような状況になりました。

9日にはTempeに流れ込み、西への拡散は続いています。 一方、Meridiani付近では南方向に拡散していて、一部が南極冠に達しました。 10日には、Solis Lacusの東にあるThaumasia付近に新たなダストストームが発生しました。 11日のMeridianiを中心とした火星面では、極冠も半分程度がダストストームに覆われ、火星面の模様はほとんど見えません(図6)。 今後、全球的に拡大していくと思われます。

これから夏の終わり頃まで、火星の模様を見るには厳しい状況となる可能性が高いことを、観望会を計画されている方々は知っておいてください。

[図4] 発生翌日のダストストーム
白線で示した。撮像:ジョン・ブードロー氏(米国、37p)
[図5] 広がるダストストーム
左下の明るい部分がダストストーム。撮像:荒川毅氏(奈良県、30p)
[図6] のっぺりした火星面
撮像:マーク・ロンズデール氏(オーストラリア、28cm)

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