天文ガイド 惑星の近況 2019年7月号 (No.232)

堀川邦昭、安達誠


夜半過ぎの夜空では、木星と土星が輝いています。 木星は10日に留、土星は13日に西矩、30日に留を迎え、そろって逆行を始めています。 火星はおうし座を順行中で、夕暮れの西空に見えていますが、すっかり遠ざかってしまいました。

ここでは4月から5月初めの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

今年は大赤斑(GRS)周辺で暗部の活動がたびたび発生しています。 前月号で報告した暗赤色のすじ模様は、発達することなく消失してしまいましたが、すぐに別の大規模な活動が始まりました。

4月8日、大赤斑後部に暗斑が出現し、大赤斑の南を越えて前方の南熱帯(STrZ)に南熱帯紐(STrB)を形成する一方、大赤斑後部には大きな暗部が発達して、後方から覆いかぶさるような様相になりました。 2014〜2015年と2017年に現れた暗部とまったく同じです。 南赤道縞(SEB)南縁のジェットストリームが変化して、大赤斑後部に循環気流(Circulating Current)のような流れが出現したようです。 4月中旬に赤斑湾(RS bay)に侵入した2個の後退暗斑が、暗部を伝って大赤斑を周回し、前方に出たことがそれを明かしています。 本来の循環気流は、流れが北→南と南→北の対になっていますが、今回の暗部は大赤斑の高気圧的な(左回りの)循環によって副次的に形成されていて、 北から南へ向かうだけの一方通行です。 そこで、このページではこの流れを「準循環気流」と呼ぶことにします。

発生からひと月経過した5月上旬の時点で、STrBの長さは60°を超え、先端はII=220°に位置する永続白斑BAに迫る勢いです。 多数の濃淡や突起がみられ、SEB南縁にみられる無数の後退暗斑が準循環気流によってSTrBへと運ばれていることがうかがわれます。 過去の例からみて、この活動は3〜4ヵ月程度継続すると思われます。 STrBの活動は、南熱帯攪乱(STr. Disturbance)の発生につながることがあるので、注意が必要です。

準循環気流の発生により、SEBにも変化が見られます。 大赤斑後方では南縁がくびれて少し細くなり、2月から活動的だったpost-GRS disturbanceはすっかり衰えてしまいました。 また、大赤斑前方に伸びるSEBの中央組織も、II=200°より前方が淡化して明るく幅広いSEBZが拡大しています。 一方、SEB南縁の暗斑群は相変わらず活動的で、衰える気配がありません。 SEB南縁の流れの影響を一番受けそうな部分なので不思議です。 暗斑群が形成されるプロセスについて考えるヒントが隠されているのかもしれません。

[図1] 準循環気流の活動
大赤斑前方でのSTrBの発達と、SEB南縁の暗斑(1と2)が大赤斑後方を回る様子。1は大赤斑の南を通って前方へ抜け、2は後方で消失した。
[図2] 伸張するSTrB
大赤斑前方に伸びるSTrBは、長さが60°を超え、永続白斑BA(左上)付近に達している。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

火星

火星は夕方の西空に回り、観測シーズンの終わりを迎えています。 視直径は4秒で、火星の大きさとしては最小に近づきました。

国内では大阪府の柚木健吉氏と愛知県の伊藤了司氏が、まだ熱心に火星を追跡しています。 筆者は60pカセグレンで観測を試みていますが、シーイングがまずまずであれば眼視でも主だった模様を捉えることができます。

注目された北極冠は3月下旬にようやく見えるようになりました。 眼視では5月4日にキラキラと白く輝く北極冠の縁を観測することができました。

4月7日、極冠形成後の巨大な白雲でTempeが明るくなっているのを、ドイツのルドルフ・ヒレブレヒト氏(Rudolf A. Hillebrecht)が捉えました。 白雲活動が盛んな場所ですが、明らかに普通の白雲ではありません。 残念ながら19日まで次の観測がなく、この雲を追跡することはできませんでした。

5月4日にSabaeusのすぐ南隣のDeucaironisにダストストームが発生したようで、画像では黄色く、眼視ではMeridianiがぼんやりして見えていました。 時期的に見てローカルダストストームだと思われます。 視直径4秒の時に眼視で捉えたのは、初めてではないかと思います。 模様への影響はこれ以上ないと思われますが、グリーンのフィルターを使えば赤よりも明るく写るので、捉えることができるでしょう。

[図3] Tempeの白雲
下の明るいところが白雲、左隣はMare Acidarium。撮像:ルドルフ・ヒレブレヒト氏(ドイツ、35p)

土星

ようやく良い条件で土星の詳細な様子を観測できるようになりました。 しかし、肝心のPolar Stormは、わずかな明暗が残るのみとなり、すっかり衰えてしまいました。 赤道帯(EZ)の白斑も拡散してしまったようです。 現在の土星面は、縞模様以外に目だった特徴が見られません。

環の傾きが徐々に減少して、環の短径は土星の本体とほぼ同じ大きさになっています。 もう少しで南極地方が環の外側に顔を出しそうですが、今後は環の傾きが再び大きくなってしまいます。 南極が見えるのは、来年になってからとなります。

[図4] 静かになった土星面
土星本体には斑点などの模様は見られない。A環を透かして南極地方がうっすらと見える。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35p)

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