天文ガイド 惑星の近況 2019年8月号 (No.233)

堀川邦昭、安達誠


夜半過ぎの夜空では木星と土星が並んで輝いています。 木星は6月10日にへびつかい座で衝となり、いて座の土星もひと月後に衝を迎えます。 火星は天球の反対側でふたご座に入りました。 9月の合を待つばかりで、観測はお休みに入ります。

ここでは5月中旬から6月上旬の惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

大赤斑が壊れる!?

今年の大赤斑(GRS)は、外縁がフレーク状にはがれる現象を繰り返し、とても活動的です。 先月には、南赤道縞(SEB)南縁のジェットストリームが大赤斑の後部を回って南熱帯紐(STrB)を発達させる、準循環気流が発生しました。 しかし、これらはほんの序の口だったようで、5月にはさらに大きな変化に襲われました。

5月17日、赤斑湾(RS Bay)へ進入したSEB南縁のリング暗斑により赤いフレークが出現、準循環気流の流れに乗って大赤斑の南を回り、22日には前部で大きな赤い塊を形成しました。 赤い塊はSTrBに沿って前方へ伸びる一方、一部が大赤斑に巻き込まれ、26日には後部に回って再び赤い塊を形成、さらに南を回って前部へ戻る(31日)という目まぐるしい変化を見せました。 このため、大赤斑の見かけの形状は、日々大きく変わり、まるで大赤斑が壊れてしまったかのようでした。 6月になると大赤斑後部での活動は一段落したようですが、前部の赤い塊はSTrBに沿って伸張し、8日には30°近い長さに達しています。 メタン画像でも赤化したSTrBは明るく、大赤斑の赤色物質が流出・拡散するという前代未聞の事態になっています。

上記の赤いフレーク活動により周囲に赤い物質をまき散らした結果、大赤斑は5月半ば以降、急速に縮小しています。 5月下旬〜6月初めの大赤斑の長径は平均12.5°で、近年で最も小さかった2013年を下回り、過去最小を記録しています。

4月に発生した準循環気流は、前述のように赤いフレーク活動の重要な要素となっています。 発生後、大赤斑後方のSEB南部はすこし静かになったのですが、5月後半から再び活動的になり、SEB南縁に大量の暗斑群が形成されています。 これらはSEBsの後退ジェットストリームに乗って、8月頃には大赤斑前方に達すると思われます。 どんな現象が見られるか期待が膨らむ反面、「大赤斑は大丈夫か?」とちょっと心配になってしまいます。

[図1] 赤いフレークの活動
赤いフレークの活動により大赤斑の見掛けの形状が変化する様子。22〜23日は大赤斑前部で、26〜27日は後部で大きな塊ができている。
[図2] メタン画像で見たフレーク活動
中央の大赤斑から複雑に入り組んだ白いすじが延びている。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
[図3] 史上最小の大赤斑
赤いフレーク活動の結果、大赤斑は著しく縮小した。この日の長径はわずか11.3°である。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)/td>
[図4] 大赤斑の長径変化
大赤斑の10日ごとの平均長径。縦線は標準偏差。5月後半に急激に小さくなっている。

土星

北半球高緯度の白雲活動として注目されたPolar Stormは、拡散・消失して軽微な濃淡が残るだけになりました。 土星面はすっかり静かになり、縞模様だけの単調な姿に戻っています。 唯一見られる特徴は、北極の六角形パターンだけで、今年は外側の領域が暗緑色ながら内側よりも明るいので、六角形がよくわかります。

縞模様では北赤道縞(NEB)と北温帯縞(NTB)が明瞭で、さらに北側に北北温帯縞(NNTB)も見られます。 NEBは北部が淡化してベルトの細くなっています。 NTBとの間には淡いベルトが2本あり、低緯度側は淡化したNEB北組織ですが、高緯度側は名称に困ってしまいます。

大きく開いた環は見事で、異常は見られません。 6月に入ってB環が少し明るく見えるのは、衝効果が始まっているためと思われます。

火星

まもなく観測シーズンは終了しますが、まだ3人の方々から3秒台になった報告を受けています。 5月26日には、OlympiaMons付近が黄色くなっている様子が捉えられました。 一方、北極冠ははっきり見えるようになりました。 可視光でも赤外でも記録されています。 イギリスのルイス(Martin R Lewis)氏の画像は、この時期としては驚くほど素晴らしく、東のリムに広がる夕霧が記録されています。

[図5] 北極冠のはっきりした火星
よく見ると北極冠の明るさにムラが見える。撮像:マーチン・ルイス氏(英国、44cm)

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