天文ガイド 惑星の近況 2020年10月号 (No.247)

堀川邦昭、安達誠


木星が7月14日にいて座で衝を迎えました。 その6日後の20日には、土星がいて座に戻ったところで衝となりました。 火星はくじら座の縁をかすめつつ、うお座を順行中です。 どの惑星も長引いた梅雨のせいで、国内の観測は沖縄を除いて大きな打撃を受けました。

ここでは8月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

3月末に始まった北赤道縞(NEB)の拡幅はほぼ全周に及んでいます。 残っていた大赤斑(GRS)の前方、II=200°台でも、北緯20°に新しい北縁が形成されつつあり、 拡幅活動はほぼ完了と言えるでしょう。 ベルト内部では乱れた白雲による激しいリフト活動が続いています。

大赤斑は先月から3°後退してII=339°になりました。 7月は目立ったフレーク活動がなく、前方に伸びていたストリーク(streak)は拡散。消失してしまいました。 大赤斑周辺では暗色模様が少なくなり、 オレンジ色の本体が南赤道縞(SEB)から浮き上がるように見えています。

新しい南温帯縞(STB)のセグメント(断片)の前後端である2個の暗斑は、後方の暗斑も大赤斑の前方に抜けました。 両者の間にはセグメントの輪郭となる淡いすじや暗斑群が見られます。 今後、濃化してベルトの断片になるか、それとも淡いフィラメント領域になるか、注目されます。

北温帯縞(NTB)は全周で淡化が進んでいますが、II=180°付近に長さ60°の北組織(NTBn)の断片が残っています。 6月以降、この断片の南縁で大量の暗斑が生成され、 北温帯流-B(NT Current-B)に乗って、1日当たり-2.3°のスピードで前方に移動しています。 そのため、II=100°前後では淡化したNTBに沿って暗斑群が見られます。

[図1] 木星面展開図
7月31日〜8月2日の6画像から作成。中央に大赤斑と永続白斑BAがあり、その左側にSTBの2個の暗斑が見られる。北半球ではNEBがほぼ全周で幅広くなり、中央左側ではリフト活動によってベルト内部がかなり乱れている。その北側(下)にはNTBの暗斑群が見える。撮像:伊藤了史氏(愛知県、25cm)、石橋力氏(神奈川県、31cm)、熊森照明氏(大阪府、35cm)、鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)、アンディ・ケーズリー氏(オーストラリア、35cm)

火星

6月に発生したダストストームは広い範囲に拡大し、エンサークリング・ダストストームになりましたが、次第に拡散して衰えていきました。 火星はまだ、ダストストームの最盛期にはなっておらず、これからたくさん発生するのではないかと思われます。

火星のLsは7月末には250°になり、南半球は秋分に近づいて、南極冠(SPC)が次第に小さくなってきました。 最接近のころには、南極冠はほとんど見ることができませんから、極冠らしい姿を見るのは今のうちです。 7月初旬にはHellasの南側にミッチェル山が姿を現しました。 極冠の縮小時に標高の高い部分が取り残されて見える現象で、月末にははっきり見えるようになりました。 まだ、SPCと並んでいるため、独立して見えるのはもう少し先になります。

今月はSPCからのエッジダストストームの活動が盛んでした。 SPCが昇華するときに中緯度方向に風が吹き出しますが、この時にSPC付近の砂を巻き上げ、北側に拡散させます。 このため、SPCの周囲を取り巻くようにダスティーな(模様が見えにくくなった)部分ができています。 SPCを取り巻く模様はかなり変化を見せるようになっています。

エッジダストストームは、Argyre南方付近・Mare Sirenum南方・Hellas南東方向の3か所が目立っていましたが、7月末にはCimmerium南方にも顕著な部分が発生しました。 これら4か所は、SPCの縮小時にいつも見られる場所に当たります。

今年はHellasがいつもよりも広がって、大きく見えています。 これは、Hellasを中心としたダストストームの影響が残っているためです。

[図2] エッジダストストーム
南極冠の縁から右下に伸びる明るいバンドがエッジダストストーム。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)
[図3] ミッチェル山
小さな南極冠のように見えるのがミッチェル山。Hellasの南側に特徴的な姿を毎回見せてくれる。撮像:マイク・フッド氏(米国、20cm)

土星

北極領域南縁の白斑は、7月も観測されています。 体系IIIに対して1日当たり-12°という高速で前進を続けていて、31日の経度はIII=40°です。 5月末に発生してから、土星面を丸2周してしまったことになります。 白斑は輝度も低い上にあまり大きくもないので、2ヵ月も存続するとは予想していませんでした。

土星面は概ね静かで大きな変化は見られません。 7月は衝効果のため、どの画像でも環がとても明るく見られました。

[図4] 衝効果で明るくなった土星の環
▲の先に北極領域の白斑も見られる。撮像;熊森照明氏(大阪府、35cm)

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