天文ガイド 惑星の近況 2020年11月号 (No.248)

堀川邦昭、安達誠


長引いた梅雨から一転して、8月は好天・好シーイング続きでした。 うお座の火星は、視直径が20秒近くになり、最接近が近づいてきました。 木星と土星はいて座を逆行中です。 どの惑星も観測には最高の条件に恵まれました。

ここでは9月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

北温帯縞南縁(NTBs)を流れる木星面最速のジェットストリームで、攪乱活動(NTBs jetstream outbreak)が始まりました。 この現象は、明るくメタンブライトな先行白斑(Leading spot)が出現、I系よりも速いスピードで淡化中のNTBをかき乱し、濃化復活させます。 前回の発生は2016年でした。

今回の先行白斑は、8月18日に宮崎勲氏(沖縄県)によって、北緯23°、I=7.4°の北熱帯(NTrZ)で発見されました。 数日のうちに眼視でも容易に見えるほど明るくなり、後方には暗斑群も現れました。 白斑のドリフトは1日当たりI系に対して-4.9°、風速で+161m/sというこの活動として典型的な値で、9月3日にはI=290.0°に達しています。 後方には青黒い乱れた暗斑が並び、長さ50°の攪乱領域を形成しています。

9月1日、I=132.2°のNTrZに新たな白斑が発生しました。 最初の先行白斑同様の高速で前進し、5日には後方に暗斑が出現、二つめの活動領域が形成され始めました。

先行白斑の寿命は数週間と短命ですが、2つの攪乱領域はその後も拡大・融合して、2〜3ヵ月でNTBは全周で濃化復活するでしょう。

この現象は、途中17年間の中断をはさんで、1970年からほぼ5年おきに発生してきました。 今回はまだ3年しか経っていません。 発生パターンが変化した可能性がありそうです。

[図1] NTBs jetstream outbreakの発生
左) 中央左に先行白斑があり、後方に大きな暗斑が並んでいる。撮像:エリック・シューセンバッハ氏(オランダ、28cm)。右) outbreakの第2白斑。後方には暗斑も出現している。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)
[図2] NTBs outbreakの発達
先行白斑が高速で駆け抜けながら、後方に攪乱活動を引き起こしている。縦方向の配置は木星の自転数に合わせてある。

火星

南極冠(SPC)が非常に小さくなってきました。 Hellasの南にあるミッチェル山が、SPCから離れて単独で輝いて見えます。 SPCの縮小に伴い、火星像の周縁部には霧による白雲が見られるようになってきています(図3)。

SPCの中心は、南極から偏心したところにあり、経度0°からは非常によく見えますが、反対の180°付近からは見えにくくなっています。 画像では写り方に大きな差があります。

SPCが昇華していくときに噴き出たダストによって、南半球はダスティーで見えにくくなっており、とくにSolis方面はその傾向が強く出ていました。 しかし8月の月末には徐々に淡くなり、模様が見やすくなりつつあります。

Solisの西方にいくつもある巨大な成層火山の中で、Arsia Monsだけが白雲をいただいた姿を見せています。 これらの巨大火山はターミネーターに近づくと影ができて、火山が立体的に(3Dのように)見えることが多く、見事な姿が捉えられていました(図4)。

目立つダストストームは発生しませんでしたが、SPCの周りには見つかり、特にSirenumの南方は活動的でした。 いずれも発生後、東風に流され、極付近を周回しています。

[図3] 火星周縁部の白雲
北極フード(下)と朝霧(右縁)が明るい。他にもほんのり明るい雲があちこちに見える。撮像:エフライン・モラレス・リベラ氏(プエルトリコ、31cm)
[図4] 巨大火山が落とす影
画像の中央左下、欠け際に近い火山の左側に影ができている。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)

土星

赤道帯(EZ)に白斑が観測されています。 平林勇氏(東京都)は、8月15日と21日に明るいEZの北縁近くに白斑を捉えました。 経度はI=69°と100°で、同じ白斑とすると1日当たり+5°で後退しています。 白斑は小さくコントラストが低いため、他に1例の観測があるだけで、追跡はできませんでした。

北極領域南縁の白斑は、8月も観測されています。 1日当たり-12°という速いドリフトも変化していないようで、29日の経度はIII=55°で、発生以来、土星面を丸3周してしまいました。

[図5] 土星の白斑
縦線の先に白斑が見える。赤外画像。撮像:平林勇氏(東京都、25cm)

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