天文ガイド 惑星の近況 2021年11月号 (No.260)

堀川邦昭


木星はみずがめ座を逆行して、8月20日にやぎ座との境界線上で衝となりました。 同じやぎ座を逆行中の土星とともに、観測の好機にあります。 8月前半は台風や大雨に見舞われた時期もありましたが、後半は概ね好天と好シーイングに恵まれました。

ここでは9月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

8月上旬に大赤斑(GRS)前方で発生した南温帯縞(STB)の攪乱活動(STB outbreak)は、メタン白斑に続いて前方北−後方南に傾いた青いフィラメント領域が形成されました。 小さな白斑や暗斑が現れては消え、形状の変化もかなりあるので、対流活動は続いているようです。 新しいベルトの断片に成長するかどうか、注目しています。

大赤斑から60°後方には、今年新たに形成されたSTBの断片があります。 濃化・成長してずいぶんベルトらしくなりました。 元々、永続白斑BAの後方にあった暗部と合わせると、全長120°もある長いSTBができています。 このちょうど真ん中のII=130°にBAがあります。 内部は薄暗く濁っていますが、暗い縁取りがあるのでとても目立ちます。 BAのすぐ前方にはWS6が白く明るい白斑として見えています。

準循環気流の活動が終息して、大赤斑後部を回る流れが途絶えたため、大赤斑前方の南熱帯紐(STr. Band)は急速に淡化しつつあります。 すでに木星面の約半周で淡く細い組織に衰えてしまいました。 大赤斑の周囲には、まだ小規模ながら暗部が残り続けています。 後方の濃いSTr. Bandから暗物質が供給されているのではと筆者は考えています。 経度はII=1°で、再び0°を越えました。 8月後半から新たな後退期に入ったようです。

これまで大赤斑後方の南赤道縞(SEB)南縁は、激しく乱れて大きな突起が多く見られ、SEB南縁を後退するリング暗斑の供給源となっていました。 しかし、8月以降は活動が穏やかになり、暗斑は少なく、南縁はおおむね平坦になっています。 この静かな領域はジェットストリームの流れと共に、後方へ拡大しています。 2019年から続く激しい活動が変化するきっかけになるか、注目されます。

北赤道縞(NEB)は淡化が進んで、オレンジ色に着色した赤道帯(EZ)北部よりも淡くなってしまいました。 そのため、残ったNEB南組織とEZ北部が一本のベルトのような見え方になっています。 バージも大赤斑後方の2個を除くと、縮小・淡化が進んでいます。 II=110°にある大きなバージは消えてしまいそうです。

一方、北北温帯縞(NNTB)には、6月末に始まったジェットストリームの活動により、おびただしい数の暗斑が形成され、1日当たり-2.7°で前進しています。 先頭の暗斑はII=260°に達し、木星面を半周以上回ってしまいました。 暗斑群の北側ではNNTB本体が濃化復活しつつあります。

[図1] 大赤斑とSTB outbreak
大赤斑の左上に淡く斜めに傾いたoutbreakの領域が見える。上はクローズアップ。中央に白斑があり、前後に乱れた暗斑が広がる。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)
[図2] 大赤斑後方のSEB南縁の変化
7月はのこぎりの歯のような大きな突起がたくさん見られたが、現在は平坦で突起はほとんどない。撮像:左) 伊藤了史氏(愛知県、25cm)、右) 黒田瑞穂氏(兵庫県、28cm)
[図3] 永続白斑BAと濃化復活したSTB
真ん中に縁取りのある白斑としてBAがあり、前後に長いSTBが見られる。左側は今年形成された新しいSTBで、BAの左下の白斑はWS6。右側は以前から存在するSTBの断片で、全長120°もある。撮像:大田聡氏(沖縄県、30cm)

土星

8月2日の衝を過ぎて、太陽との位置関係が変わり、環に落ちる影が土星本体の左側から右に移りました。 また、地球に対する環の傾き(B)と太陽に対する傾き(B')が衝をはさんで逆転し、Bの方が大きくなったため、A環の外側に見えていた影がなくなり、B環の内側のエッジが明瞭になっています。

土星面は変化ありませんが、心なしか淡化中の北赤道縞(NEB)北組織が、先月よりも明瞭になったように見えます。 濃化復活する兆候なのでしょうか。

[図4] 8月の土星面
太陽との位置関係が変わり、本体の影が右側に、環の影が内側に移動している。撮像:西岡達志氏(神奈川県、46cm)

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