天文ガイド 惑星の近況 2022年7月号 (No.268)

堀川邦昭、安達誠


明け方の東天で、先月大接近した金火土の3惑星は、火星と土星が右上の方へ離れ、代わって木星が金星と並んで輝いています。 高度が増して、観測条件が少しずつ良くなっています。 ここでは5月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

火星の視直径はようやく6秒近くになりました。 なかなか大きくならないため、観測数も増えにくい状況です。 しかも、日本は天気もシーイングも悪く、4月はこれといった成果が出ませんでした。

火星の季節を表すLsは218°で、南半球では春分と夏至の中間の位置になり、南極冠は次第に小さくなってきています。 極冠の周囲は不規則なのですが、きれいな姿はなかなか見ることができません。

南極冠はドーナツ状で周縁部が明るく、あちらこちらに明暗が見えます。 中央部は砂漠のゆな色で、画像でもオレンジ色に写るようになりました。

極冠以外の模様では、Hellas周辺がかなり濃いダストに覆われており、眼視では見えにくくなっています。

月末になって複数のダストストームが発生しました。 4月29日に南アフリカのクライド・フォスター(Clyde Foster)氏が、Mare SirenumとMare Cimmerium付近に、淡いエッジダストストーム状のダストの帯を記録しました。 縮小期の南極冠では、ほぼ常時、赤道に向かって風が起こります。 南極冠を作っている二酸化炭素が昇華することで、極域の気圧が高くなるのです。 画像では極を取り巻くように黄色っぽいベール状の明帯が記録されています。 今回のエッジストーム状のダストは、こういった過程で起こったと考えられます。

翌4月30日には、ポルトガルのアントニオ・シダダオ(Antonio Cidadao)氏が、Hellasの北部に明瞭なダストストームを記録しました。 しかし、短波長の観測がなく、しかも明るい状態が1日だけだったこともあり、詳しくは分かりませんでした。 また同じ日に、オーストラリアのマーク・ロンズデール(Mark Lonsdale)氏は、Chryse 地方に小さくかすかな光斑を観測しました。 詳細は次号にしますが、ここはダストストーム発生の特異点として知られています。

[図1] 南極冠の状況
南極冠は周辺部が明るく中央部が暗い、ドーナツ状になっている。撮像:マーク・ロンズデール氏(オーストラリア、35cm)

木星

活動が続く北赤道縞(NEB)の状況が明らかになりました。 全周で南組織(NEBs)が厚くなり、南縁にはリフトや白斑で乱れたところもありますが、北半分は淡いままです。 昨年末に始まった活動は、ベルト南部に限定され、大規模な濃化復活とはならなかったようです。 淡化したNEB北部に島のように浮かんでいたバージ(barge)は、現在も南組織から垂れ下がる暗部として残っていますが、大半は淡く不明瞭になってしまいました。

一方、NEB南縁では青黒い暗部や赤道帯(EZ)に向かって伸びるフェストゥーン(festoon)が再び見られるようになっています。 ベルトのような赤茶色だったEZ北部は色が薄れ、明るさを取り戻しています。 まだ薄茶色で、紫外光では暗く見えていますが、一昨年(2020シーズン)と同程度の明るさに回復しています。

大赤斑はオレンジ色で、前後に小規模な暗部を伴っています。 経度はII=15°で昨シーズン末から5°ほど後退しました。 南温帯縞(STB)では、大赤斑の少し前方のII=345°には永続白斑BAがあり、さらに30°ほど前方にはWS6も見られます。 両者の間隔は少し広がったようです。 前後のSTBは明瞭なベルトですが、II=250°よりも前方ではSTB北組織(STBn)を前進する暗斑群になっています。 昨シーズンに比べると個々の暗斑が大きく目立っています。

南南温帯縞(SSTB)の7個の高気圧的白斑(AWO)は健在です。 A2からA5は昨シーズン同様、II=180〜240°に密集していますが、A1は50°も前方に離れてしまいました。 残るA7はII=305°、A8は大赤斑南のII=3°に位置しています。

北半球では北温帯縞(NTB)の淡化が進んでいます。 また、北北温帯縞(NNTB)もII=90〜190°にベルトの断片が見られるだけで、他の経度は淡化状態にあり、II=300°台では南縁に沿って暗斑群が見られます。

[図2] 今月の木星面
左) 大赤斑と永続白斑BA。淡化したままのNEB北部にはバージが並ぶ。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm) 右) SSTBにA2〜A5の白斑群。STBnには大型のジェット暗斑群が見られる。左端の白点はイオ。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

土星

土星の日の出時の高度は30°を越えるようになりました。 土星面は穏やかな状況が続いていて、追跡可能な斑点などの模様はなく、環にも異常は見られません。 北緯60°台にできた赤茶色のベルトは今月も目立っています。 今後このページでは、このベルトを北北温帯縞(NNTB)と呼ぶことにします。

4月29日の画像を見ると、NNTBの北側に小さな暗斑が捉えられています。 これは土星本体の模様ではなく、土星面を経過中の第8衛星イアペトゥスです。 土星の衛星の多くは赤道面付近を公転しているので、経過現象は環が消失(次回は2025年)する前後に限られるのですが、イアペトゥスは軌道が大きく傾いているため、3年も早く見られました。 2007年以来、15年ぶりの珍現象です。 また、今年はイアペトゥスが土星本体や環の影に入る食現象も見られます。 日本では6月9日の土星本体の影による食現象が観測しやすいようです。

[図3] 経過中のイアペトゥス
土星面の左上に見える黒点がイアペトゥス。15年ぶりの現象。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

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