天文ガイド 惑星の近況 2022年9月号 (No.270)

堀川邦昭、安達誠


木星は6月28日にうお座とくじら座の境界付近で西矩となりました。 土星はやぎ座を逆行中で、どちらも観測の好機を迎えています。 火星はうお座を順行中です。 視直径は7秒と少しずつ大きくなってきました。

ここでは7月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

7月に入り、大赤斑(GRS)の周辺で異変が見られます。 SEB南縁の後退ジェットストリームが、大赤斑後部を回って南温帯縞(STB)北縁の前進ジェットストリームと連結する準循環気流が形成されつつあるようです。

今シーズンの大赤斑はオレンジ色が鮮やかで濃度も回復、後端はブリッジ(bridge)と呼ばれるなだらかなスロープで南赤道縞(SEB)と連結し、前端には短くストリーク(streak)があるものの、それほど目立ちませんでした。

ところが7月に入るとブリッジが立ち上がった形に変化し、3日頃には大赤斑側にカギ状に曲がったフック(hook)が形成されました。 フック先端は大赤斑の南側に伸びてアーチとなり、前方のストリークも日増しに濃く長くなっています。 また、6日になると、大赤斑後方のSEBが少し細くなる兆候が見え始め、SEB南縁のジェットストリームの流れが変化していることがうかがえます。 今後は大赤斑前方のストリークが伸長して、濃い南熱帯紐(STrB)が形成されると予想されます。 準循環気流の発生は、1年半ぶりとなります。

今シーズンの木星面は北半球が模様に乏しい印象を受ける一方、南半球は暗色模様が豊富で、特にII=100〜300°ではSTB北縁のジェットストリームに沿って、無数とも思えるほどの暗斑が見られます。 SEB南縁ではII=220°付近にある南熱帯(STrZ)に大きく張り出した東西に長い暗部が目を引きます。 この暗部は昨シーズンから存在していて、体系IIに対して1日当たり+0.4°でゆっくり後退しています。 暗部の前後ではSEB南縁の緯度が南緯23°と高く、暗斑も数多く見られます。

[図1] 6月の木星面
左) 大赤斑は小ぶりだがオレンジ色で明瞭。後方のSEBが幅広く大赤斑後部では異変が始まっている。左側の白点は経過中のエウロパ。撮像:石橋力氏(神奈川県、30cm) 右) STBに無数の暗斑が見られる。右側のSEB南縁には大きな暗部がある。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm)
[図2] 準循環気流の形成
大赤斑後部のSEB南縁が大きく立ち上がってフックと呼ばれる暗部を形成し、大赤斑の南を回るアーチが発達する様子。前方のストリークも濃度を増しているのがわかる。

火星

6月の南極冠は小さくなって、Hellas盆地の真南にはミッチェル山が見えてきました。

火星面はとてもダスティーな状態が続いています。 南極冠から放出されるダストと、火星面上のいろいろな所で発生する砂嵐によるもので、どの模様も大気中に浮遊しているダストの影響を受けて、コントラストが低下し、見えにくくなっています。

6月26日、エッジダストストームが発生したことを奈良県の荒川毅氏が捉えました。 今シーズン5回目の発生となります。 図1で南極冠から左下に伸びる明部が、発生時の様子です。

エッジダストストームは発生した後、北(図1では下の方向)に進むことが多いのですが、極冠が小さくなってから起こった場合は、勢いが弱いため、中緯度方向に進まずに、極を回る風に流されることが多くなります。 今回も発生から4日経った6月30日には、西の方に蛇行しながら流れていく様子が鮮明にとらえられています(図2)。

[図3] エッジダストストームの発生と発達
左) 発生時の様子。南極冠から左下に伸びる明部がダストストーム。右) 4日後の状況。ダストストームが極冠の周りを蛇行しながら流されていく様子がよくわかる。撮像:荒川毅氏(奈良県、40cm)

土星

土星面は静かな状況が続いています。 数年前までは時々白斑などの出現がありましたが、昨年あたりから途絶えています。 大規模な白斑などの活動は数十年周期で起こりますが、小規模な活動にも活発な時期と静穏な時期があるのかもしれません。

環の傾きは+12°と今年の最小値となり、見かけの幅は土星本体の半分ほどです。 土星の南半球は青の色合いが薄れて、だいぶ土星らしい色調になってきました。

[図4] 6月の土星
環の幅は本体の半分ほどで、土星の南半球が大きく見えている。撮像:山崎明宏氏(沖縄県、30cm)

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