木星は7月29日に留となって逆行に転じ、まもなくやぎ座で衝を迎える土星と共に観測の好機にあります。 火星はおひつじ座に入りました。 視直径は8秒になり、ようやく夜半前に地平線から昇るようになりました。
ここでは8月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。
7月初めに発生した準循環気流による暗部は、順調に発達を続けています。 大赤斑(GRS)後部のフックと呼ばれるカギ形の暗柱はとても濃く、前方に伸びる南熱帯紐(STrB)はずいぶん長くなり、II=290°にある永続白斑BAの北に達しています。 全長80°もあり、伸長速度は1日当たり2.5°と、この現象としては典型的な値です。
今回はBAから大赤斑までの間に南温帯縞(STB)が横たわっています。 STrBはこのSTBの濃化部と融合して、二条になった幅広いベルトのようになり、とても乱れています。 また、大赤斑前方の狭い南熱帯(STrZ)は薄暗くなり、一見して南熱帯攪乱(STr. Disturbance)のような様相を呈しています。
大赤斑本体はオレンジ色で、準循環気流の影響は見られません。 8月上旬に南赤道縞(SEB)南縁の後退暗斑によるフレークが発生し、大赤斑を周回しました。 縮小が進むことが懸念されます。 経度はII=21°で停滞しています。 先月までの後退運動は止まりました。
北赤道縞(NEB)南部は、活動的な領域がI=0〜60°と後方に移動しました。 相変わらず南部限定の活動で、北縁は淡いままですが、昨年と比べるとNEB南組織は少し幅広くなっています。 NEBはじわじわと濃化復活しつつあるのかもしれません。
8月初め、「SEB南縁にヘビがいる!」と、鈴木邦彦氏(神奈川県)や宮崎勲氏(沖縄県)からコメントがありました。 確かにII=210°のSTrZにある大きな暗斑と、後方にうねうねと暗条が伸びる様は、大きなヘビが這っているように見えます。 おまけに先端から細いすじが舌のように伸びています。 観測しているとこんな面白い模様に出会ってニヤリとすることがあります。 これもひとつの楽しみといえるかもしれませんね。
[図1] 発達するSTrB |
大赤斑前方のSTrBは長さ80°に達している。南側のSTBと融合して、一本の太いベルトに見える。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm) |
[図2] 木星に巨大ヘビ現る!? |
SEB南縁を大きなヘビが這っているように見える。先端から細い舌も伸びている。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm) |
7月末の南極冠は非常に小さくなりました。 南極冠の中心は南極から少し外れているので、見る向きによっては存在自体が分からないくらいです。 大気中の水蒸気量も増えて来て、暗色模様が青っぽく見えます。 口径や空の透明度などの条件がそろうと、美しい火星像が見えるようになりました。
7月1日にプエルトリコのモラレス=リベラ(Efrain Morales Rivera)氏は、Chryse(35W, +10)とXanthe(W53, +15)にローカルダストストームを記録しました(発生日は1日前と思われます)。 すでに地域全体に広がっていて、4日後には拡散して見えなくなっていました。 また、ひと月後の7月30日にも、再びChryse にローカルダストストームが発生しましたが、これもすぐに拡散していきました。
2020年の南極冠縮小時には、南半球高緯度(南極冠の周囲)に帯状(東西方向)のダストが観測されました。 今シーズンも極を取り巻くダストストームが発生しています。 6月26日に起こった、エッジダストストームがきっかけのようです。 観測条件が悪く、しかも日本では悪天候が続いたこともあり、詳しい経過はわかりませんでした。 8月初めの時点で、Mare Cimmeriumの南方は、白雲(南極雲)とまじりあって白っぽく観測されることが多いのですが、視直径が小さくてわかりにくいです。
本格的な夏になり、安定したシーイングでの観測が望めます。 ぜひ火星を狙ってほしいと思います。 これからの火星は、さらに極冠の存在がわかりにくくなります。 視野の中でどの方向が南(あるいは北)なのか、また、欠け際は自転軸に対してどの向きに何度傾いているのかを、確実に理解して観測に臨むようにしましょう。 数値は天文年鑑などを参照してください。
[図3] 火星のダストストーム |
左) 7月1日のダストストーム。撮像:エフライン・モラレス=リベラ氏(プエルトリコ、30cm) 右) 7月30日のダストストーム。1日とまったく同じ場所に発生した。撮像:アルマンド・バッカーロ氏(イタリア、35cm) |
土星面では北緯65°の北北温帯縞(NNTB)中に白斑が捉えられています。 8月5日でIII=196°に位置しており、III系に対して1日当たり-12°という高速で前進しています。
7月下旬から環が明るく見える画像が増えています。 衝効果が始まっているようです。
また、今シーズン限定の現象として、7月18日に第8衛星イアペトゥスの土星面経過が捉えられました。 4月29日以来、2度目となります。
[図4] イアペトゥスの土星面経過 |
▲の先の黒点がイアペトゥス。4月以来の現象。撮像:ジャン・ルック・ドーベルニュ氏(フランス、30cm) |
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