天文ガイド 惑星の近況 2022年11月号 (No.272)

堀川邦昭、安達誠


今年の夏は天候もシーイングも例年に比べて不安定でした。 土星が8月15日にやぎ座で衝を迎えました。 9月末に衝を控えた木星は、くじら座の北西隅を逆行中です。 火星は8月16日におうし座で西矩となりました。

ここでは9月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

準循環気流により大赤斑(GRS)前方に形成された南熱帯紐(STrB)は、1日当たり2.5°のペースで伸長を続けていて、先端はII=200°付近に達し、全長は170°と木星面をほぼ半周しました。 隣接するSTBや南赤道縞(SEB)の南組織と同じくらいの濃度があり、縄をより合わせたような複雑な構造をしています。 大赤斑後部のフックも明瞭で、オレンジ色の大赤斑とのコントラストが際立っています。

準循環気流の活動中は、SEB南縁の後退暗斑が大赤斑を周回するようになるため、大赤斑から赤い物質がはぎ取られるフレーク現象が起こりやすくなる傾向があります。 果たして8月は小規模ながら、はっきりとしたフレークが観測されました。 フレークは単に色が赤いだけでなく、メタン画像でも明るいので、高高度にある大赤斑の一部だとわかります。 大赤斑の長径は11.9°(8月平均)と、最小レベルにあります。 フレークによるさらなる縮小が心配ですが、今のところその兆候は見られません。

大赤斑後方のSEBでは、post-GRS disturbanceが久しぶりに活発になり、40〜50°に渡って乱れた白雲が見られます。 近年のSEBは北半分が淡化して明るかったのですが、今年はとても薄暗くなっています。 post-GRS dist.の北側では幅広い北組織が復活し、濃い時の普通のSEBに戻りつつあるようです。

その南側ではSTBの緯度に無数の暗斑が見られます。 II=210°付近にあるSTBの暗部(DS7)が発生源で、1日当たり-2.5°で前進しています。 進むにつれて緯度が下がる傾向はあるものの、暗斑は緯度もサイズもバラバラで、雑然としています。 大赤斑の後方に達すると、緯度が高い暗斑は準循環気流のフックにそのまま突入する一方、緯度が低いものは手前で緯度を下げてUターンするという興味深い動きが見られます。

活動が続く北赤道縞(NEB)南部では、ベルト北部に届くような大きく活動的なリフトが見られるようになっています。 NEBは少しずつ幅を広げていて、II=0°前後では約40°に渡って通常のベルト幅に戻った区間が出現しているのが注目されます。

[図1] STBnのジェットストリーム暗斑群
STBに沿って無数の暗斑が並ぶ。SEBでは白雲活動が活発になっている。撮像:皆川伸也氏(東京都、24cm)
[図2] 大赤斑のフレーク現象
矢印の先が大赤斑からはがれ出たフレーク。右はメタン画像、フレークが明るく見える。3日に現れたフレークが反時計回りに大赤斑を周回しているのがわかる。

火星

8月末の南極冠はほぼ最小サイズになりました。 南極冠は自転軸に対して偏心しているため、見る方向によっては、ほぼ見えなくなりました。 その代りに北極では次第に白雲が目立ってきています。 Lsは300°と、南半球の夏至と秋分との中間まで来ており、これから急速に北極に白雲が目立つようになっていきます。

8月はローカルダストストームが2回発生しました。 一回目は8月13日で、香港のミカエル・ウォン(Michael Wong)氏から南極冠の大きさが異常に小さいと報告がありました(図3)。 前日の観測との比較によって、極点近くで小規模なダストストームが発生したことが確認されました。 その後、極点付近がやや広い地域で明るくなり、ダストストームの広がりが見られました。 この様子は画像や眼視でも確認され、今もその影響が極点付近に残っています。 ダストの沈積物のため、南極冠は一層見えにくくなっています。

二回目のダストストームは8月20日で、Mare Cimmeriumの南側のEridaniaで発生しました。 発見はイタリアのレイモンド・セドラニ(Raimondo Sedrani)氏で、8月24日まで追跡されました。

Lsが300°付近になると、火星の暗色模様は青っぽくなります。 模様そのものが青くなるというよりも、火星の大気に浮遊していたダストが沈静化し、大気の透明度が良くなるために起こる現象だと筆者は考えています。 空の透明度が良いときにじっくり眺めてください。

[図3] 小さくなった南極冠
わずか1日の間に南極冠が急に小さくなったように見える。撮像:上) 井上修氏(大阪府、28cm)、下) ミカエル・ウォン氏(香港、35cm)

土星

北緯65°の北北温帯縞(NNTB)の白斑は、8月を通して観測されています。 1日当たり体系IIIに対して-12°という、ひと月で土星面を一周するペースで前進していて、8月29日にはIII=260°に位置しています。

NNTBは可視光では濃く幅広いベルトですが、赤外光ではゾーンのように明るく見えます。 波長別の画像で見ると、630nmの赤画像では暗いのですが、740nmの近赤外画像では明るいという興味深い変化が見られます。

土星面の他のベルトには大きな変化はありません。 A環の外側の南半球では、南赤道縞(SEB)と思われる薄茶色の縞が見えるようになっています。 8月は衝効果で環がとても明るく見えていました。

[図4] NNTBの白斑
▼の先に白斑が見られる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

前号へ INDEXへ 次号へ