天文ガイド 惑星の近況 2023年1月号 (No.274)

堀川邦昭、安達誠


日没後の南天では土星が輝いています。 10月23日にやぎ座で留となり順行に転じました。 衝を過ぎた木星はうお座を逆行中で、観測時間帯は夜半前に移りました。 代わって夜半前後の高い空では火星が赤く輝いています。 10月30日におうし座で留となって逆行に入り、12月の最接近に向けて夜空の主役に躍り出てきました。

ここでは11月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

12月1日の最接近が近づいて、視直径は15秒と大きくなり、観測の好機を迎えています。

9月21日に発見されたリージョナルダストストームは、10月1日頃に最盛期を迎えましたが、その後は衰えて10月中旬には明瞭な活動域は見られなくなりました。

嵐の発生は北半球のChryse 北部でしたが一気に南半球に広がり、東はAusonia(240W付近)、西へはSolis Lacus(100W付近)と東西220°位に達し、最終的には南半球の60%に覆いました。 今回は南極域にも広がりましたが、濃いダストが極を越えて反対側に進入することはありませんでした。 ただし、ベール状に淡く広がったダストはより広い範囲に及びました。

11月1日現在、西経270度から120°の間はダスティーになっていて、大気の透明度が低く、模様はかすんだような状態で見えにくくなっています。 しばらくこの状態が続くと思われます。

大規模なダストストームの後には、模様の変化がしばしば見られます。 今回はSolis Lacusの東側とDeucalionis Regio付近に暗化が発生しています(図1)。 火星表面の砂が移動したために起こったと考えられますが。通常は砂に覆われて明るく見える地域ですから、いつまでも暗化したままとは考えにくく、これからの変化に注目していきたいところです。

一方、北極地方には巨大な北極雲が見えるようになりました。 あたかも極冠のような白い姿で目立っています。 この雲の中で北極冠は結成されていきます。

今後の観測は、新たなダストストームの発生や、山岳雲の発生、北極冠がいつどこからどのように見えてくるかに移ります。

[図1] Solis周辺の暗化
矢印の先一帯が暗化している。コントラストが低いので、眼視ではより暗く感じる。撮像:左) ジェラルド・ステルマック氏(カナダ、25cm) 右) 阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)

木星

7月から大赤斑(GRS)の後部に居座っていた暗柱(フック)がついに消失しました。 9月に一時的に痩せて淡くなっていたフックは10月になると濃く復活し、大赤斑前方の南熱帯紐(STrB)も再生して、長さ50°の新しい断片が形成されました。 ところが11月になると再び状況が変わり、フックが後方に流れてなだらかなスロープに変化、11日にはすっかり淡くなってしまいました。 南赤道縞(SEB)南縁の流れが正常に戻り、大赤斑後部を回ってSTrBへと流れ込む準循環気流が消えてしまったようです。

一方、大赤斑のすぐ後方には木星面をぐるりと一周したSTrBの先端が迫っています。 とても濃くシャープで、木星面の主要なベルトに引けを取りません。 通常、準循環気流が消失すると、大赤斑前方のSTrBは急速に淡化するのですが、今回は周回した先端部があと数日で追いつくので、しばらくの間は濃く残ると思われます。

オレンジ色の大赤斑は後退運動が止まり、II=26°で停滞しています。 後方の南温帯縞北組織(STBn)に沿って無数に並んでいた暗斑群は、STrBに取り込まれて10月末までに一掃されました。 南赤道縞(SEB)南縁では、9月からジェットストリーム暗斑群が復活し、大赤斑に向かって高速で後退しているので、今後フレーク現象が活発になる可能性があります。

北半球では北北温帯縞(NNTB)南縁のジェットストリーム暗斑群が活動的です。 北北温帯(NNTZ)にある3つの長命な高気圧的渦(AWO)は、II=70°にあるNN-WS6が明るく目立ちます。 行方不明だったNN-WS4はII=240°の小白斑として復活しました。 残るNN-LRS1は可視光では目立たないのですが、メタンバンドではII=120°の白斑として見られます。

[図2] フックの消失
左画像で大赤斑後部に立ち上がった暗部(フック)が、右画像ではなくなっている。SEBsの濃い部分は後方に流れていて、準循環気流が消失したことがわかる。右側には周回目前のSTrB先端部が見える。撮像:左) 伊藤了史氏(愛知県、30cm) 右) 鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)

土星

北北温帯縞(NNTB)中の白斑は、輝度は低いものの、まだ高解像度の画像で認めることができます。 これまでの観測を整理すると、白斑の緯度は北緯64.2°、平均ドリフトは1日当たり-11.7°で、自転周期は10h30m18.6sという結果が得られています(測定数14)。 III系に対する風速に換算すると毎秒+56.7mとなります。

秋が深まり観測条件は悪くなる一方です。 土星が西に傾くのも早くなるので、白斑の追跡は厳しくなりそうです。

[図3] 今月の土星
NNTBの白斑が中央に見られるが不明瞭。中緯度には細く淡い組織が何本も走っている。撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)

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