天文ガイド 惑星の近況 2023年2月号 (No.275)

堀川邦昭、安達誠


火星は12月1日におうし座で最接近を迎えました(距離は8150万km)。 華やかな冬の星座の真っ只中ですが、-2等で赤く輝く火星はひと際目を引く存在です。 土星は11月16日にやぎ座で東矩となり、木星は24日にうお座で留となりました。 どちらも観測時間帯は夕方に移ってきました。

ここでは12月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

火星は最接近を迎え、視直径は17秒を越えています。 昇ってから沈むまで10時間もあり、時間を変えれば火星面をいろいろな方向から見ることができます。

11月は青みのある北極雲や白い南極の雲がいつも見えていました。 目立った現象としては11月23日にMare Acidarium南西に発生した、ローカルダストストームがあげられます。 発生場所は、ダストストーム発生の特異点のすぐ近く(西隣)のXantheで(図1)、日本からは火星像の東端ぎりぎりの位置でした。

発見は米国のメリロ氏(Frank J. Melillo)です。 画像のダストストームはかなり明るく処理されていますが、実際にはそれほど明るくはありませんでした。 筆者も眼視で捉えていますが、周囲よりもやや明るく見える程度でした。 ダストストームは25日頃までは見えていましたが、それ以降は急速に拡散して位置すらわからない状態となりました。 結果として、Chryse とXanthe付近は濃いダストに覆われた状態が続いています。

暗色模様は全球的に広がっているダストベールの影響を受け、非常にコントラストの低い状態です。 北極付近は北極フードと呼ばれる白雲が広がり、あたかも北極冠のような姿に見えています。 このフードの中では北極冠が作られていますが、雲のあちらこちらに白斑が観測されています。 いずれも微妙に位置が変わるため、地表に固着したものではないことが分かります。 極雲の縁にはやや黄白色の雲が北極から噴き出したかのように見える所が時々発生しいます。 また、Alba(115W, +45)には雲が見られるようになりました(図2)。

Lsが330〜340°になると、火星面ではしばしば東西方向に白雲の帯が現れます。 今シーズンも見えるようになりました。 雲の帯がターミネーターに差し掛かると、雲の明るさが目立ってターミネーターに突起として見える現象も観測されました。 カラー画像でも記録できますが、青画像だと一層はっきり見ることができます。

[図1] Xantheのダストストーム
円内がダストストーム。撮像:ジェラルド・ステルマック氏(カナダ、23cm)
[図2] Alba山にできた雲
矢印の先に雲がある。撮像:井上修氏(大阪府、28cm)

木星

先月号で書いたように、大赤斑(GRS)後部のフックは11月上旬に消失してしまいましたが、一週間も経っていない14日頃、木星面を周回した南熱帯紐(STrB)の先端が大赤斑の後端に到達しました。 それから数日のうちにSTrBは前方に出て、大赤斑前部に巻き付くように大きく湾曲して見えていました。 そして21日には大赤斑から離れて再び伸長を始めました。

フックが消失した後、大赤斑前方のSTrBは急速に淡化しつつあったのですが、2周目に入ったSTrBの先端はそれを追いかけるように伸長し、12月初めには連結して、木星面全周を取り巻いてしまいました。 連結部周辺は細くてやや淡いのですが、ほとんどの経度では南温帯縞(STB)と融合して、とても濃く幅広く見えています。 STrBはしだいに淡化していくはずですが、しばらくの間は残ると思われます。 2017年の準循環気流では、消失と相前後して南熱帯攪乱(STr. Disturbance)が発生しましたので、今後は南熱帯(STrZ)の異変に注意が必要です。

大赤斑はII=27°で、少しだけ後退しました。 南側のSTBを小さな白斑が通過中です。 昨年は同じような白斑が、大赤斑の左上でメタンブライトな白斑を伴うoutbreakを起こしました。 現在、小白斑の後方に見られるバージ状の濃い暗斑は、この活動の産物です。 さらに一昨年も同様の白斑が大赤斑前方でoutbreakを起こし、DS7というSTBの暗部を形成しました。 今回も同じ場所でoutbreakが起こるかどうか、注目されます。

[図3] フックの消失とSTrBの周回
大赤斑後部のフックが後方に流れてスロープに変化、直後にSTrBの先端(▼)が大赤斑の後端に到達した。 その後、STrBは大赤斑を越えて淡化しつつあった前方のSTrBと結合した。

土星

土星は日没時には南天に見えていますが、高度を失うのが早く、観測報告はずいぶん少なくなりました。 東矩を迎えて、環に土星本体の影が大きく落ちているのが目を引きます。

秋以降、淡化していた北赤道縞(NEB)北組織は再び明瞭になり、幅広く赤茶色のNEB南組織と北温帯縞(NTB)の間に細く見えています。 淡化は一時的だったようです。 北北温帯縞(NNTB)の白斑はまだ存在しているようですが、詳しい様子はわからなくなってしまいました。

[図4] 今月の土星
北半球の中ほどに復活したNEB北組織が見られる。 撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)

前号へ INDEXへ 次号へ