天文ガイド 惑星の近況 2023年6月号 (No.279)

堀川邦昭、安達誠


火星は3月14日に東矩となり、スピードを上げながらおうし座からふたご座へと入りました。 視直径は6秒台とずいぶん小さくなりました。 夕暮れに見えていた木星は西の地平に没して、観測シーズンは終了となりました。 それに代わってみずがめ座に移った土星が、明け方の東天に昇るようになっています。

ここでは4月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

火星の傾きが小さくなり、中央緯度がプラスに変わりました。 北半球高緯度を覆っていた極雲も晴れて、北の端に北極冠が姿を現しました。 眼視でも細長い楕円形に見えます。

火星の季節を表すLsは月末で45°と、北半球では春分と夏至の中間になりました。 この時期は、低緯度地方に赤道帯霧(氷晶雲)が見え始めます。 今年もTharsis付近にその傾向が現れています。 いつもならオリンピア山に白雲が見えるのですが、まだはっきり捉えられた画像はありません(図1)。

縮小期に入った北極冠は、最大時の80%程度の大きさになっています。 縮小中は極地方から冷気が中緯度方向に吹き出すため、北極冠の周囲には砂嵐が見られます。 これまでに中小10回程度のダストストームと思われるものがあり、そのうち5回が3月の発生です。 いずれも画像で捉えられ、3月20日のものが最も顕著でした(図2)。

元々、この現象はAmazonisからElysium北方付近で多く発生すると言われています。 今のところ、ダストストームは西経0°を中心に東西に80°の範囲では起こっていませんが、上記ほど大きな偏りはありません。 これから北極冠が縮小してくるとはっきりした傾向が見えてくるかもしれません。

今後は視直径が小さくなりますから、観測条件は厳しさを増して行きます。 撮像観測であれば可能と思われますので、可能な限り追いかけてほしいものです。 春になってシーイングの良い日が多くなりました。 眼視観測では400倍以上の倍率が必要と思われますが、まだ追跡は可能です。 筆者(安達)は通常では600倍で見ていますが、まだまだ観測は十分できています。

[図1] 暗斑状の4つの成層火山
3つ並んだ暗斑がタルシス3山、矢印の先にはオリンピア山が、周囲の雲によって暗斑に見える。撮像:伊藤了史氏(愛知県、30cm)
[図2] 極域に発生したダストストーム
リムに近くてわかりにくいが、矢印の先端にダストストームが見える。撮像:エフライン・モラレス・リベラ氏(プエルトリコ、31cm)

土星

まだ低空ですが、新しい観測シーズンが始まりました。 環の傾きはさらに減少して9°となり、ずいぶん幅が狭くなりました。 今年は南半球の様子もよくわかるようになることでしょう。

[図3] 今シーズンの土星
環の傾きが小さくなり、ずいぶん幅が狭くなった一方、南半球は良く見えるようになった。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)

木星

木星は太陽との合で観測はしばらくお休みとなりますが、木星面は活動的な状況が続いています。 特に活発なのは北赤道縞(NEB)で、南縁には濃い暗部が並び、ベルト内部のリフト活動も激しくなっています。 北縁の拡幅活動はII=170〜220°の範囲であまり変わっていません。 今のところ局所的な拡幅に止まっているようです。

今月は大赤斑(GRS)の前方、II=0°付近の南温帯縞(STB)に大きな白斑が捉えられています。 詳しい様子はわかりませんが、この白斑は大赤斑の南を通過した直後の1月末に消失した暗斑、spot #8の延長上にあります。 spot #8はWS6と同じように、暗斑から白斑に変化した可能性があります。

[図4] 2022-23シーズンの木星面
国内の観測者による昨年6月から11月までの画像を並べた。昨年は大赤斑の後部で準循環気流が発生し、フックやSTrBが発達した。NEBも大変活動的であった。撮像:(左上から) 堀内直氏(京都府、41cm)、井上修氏(大阪府、28cm)、栗栖茂氏(香川県、35cm)、鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)、佐々木一男氏(宮城県、40cm)、渡辺真一氏(新潟県、35cm)、鈴木隆氏(東京都、18cm)、高松泉氏(東京都、28cm)、森田光治氏(滋賀県、30cm)

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