天文ガイド 惑星の近況 2023年5月号 (No.278)

堀川邦昭、安達誠


火星はおうし座を順行中です。 距離は1.5億kmを越え、昨年12月の最接近時の2倍に離れてしまいました。 木星はくじら座の北西隅をかすめつつ、うお座を順行中です。 夕暮れの西空で日々高度を下げていて、3月2日には下から昇ってきた金星と入れ替わってしまいました。 土星は2月16日にみずがめ座で合となりました。

ここでは3月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

日没後まもなく南中となる火星は、天頂近くに見えています。 眼視観測の場合、反射だと接眼部が最も高い位置になりますし、シュミカセなどでは真下から天頂を見上げなければなりません。 かといってプリズムを入れると、像が裏返ったり悪化したりして、大弱りです。

視直径はどんどん小さくなり、2月末には8秒ほどになってしまいました。 詳細な画像は望み薄となりましたが、火星大気はダスティーな状態からは脱し、模様は良く見えるようになっています。

2月の火星は、北の端にやや黄色い北極冠がいつも見えるようになりました。 極冠の中の様子はよくわからないものの、北極冠を取り巻く黒いバンドがくっきりと見えるようになり、条件が良いとその中に暗部がいくつも見えます。

北極冠は縮小期に入っていて、今は最大時の60%位の大きさになってしまいました。 2月初めは、周囲に北極フードの名残が見られましたが、10日頃(Ls=22°)にはほとんど見えなくなりました。 縮小期は北極冠からの冷気によるエッジダストストームが頻発しますが、今期も活発な様子が観測されています。

2月8日、Elysiumの北東に淡いものが発生しましたが、すぐに拡散してしまいました。 次いで13日にはPropontis付近(170W, +55)で発生しました。 これは明るく眼視でも見えました(図1)。 翌日には見事なループ状になり、17日頃まで南へ大きく広がっていく様子が観測されました。

17日にAlba山(115W, +45)付近に淡いものが発生しました。 その後南には広がらず、極付近の西風に流され、緯度に沿って東に広がっていきました。

22日にはArabiaの南側にも発生しました。 ダストストームと呼べるほどの濃いものにはなりませんでしたが、これと同程度の規模のものが、その後次々に起こっています。 発生場所は偏りのあることが知られていますが、次回の報告の時に、今シーズンの傾向を紹介することにします。

Mare Acidarium付近は、2月を通して青みがかった雲が広がっていましたが、時々西から流されてきたダストの影響を受けて、白っぽい色に見える時がありました。

南極地方は南極フードの広がりよく目立ちます。 北極冠が黄色くて目立たないため。南極フードを極冠だと思う人が多くいます。 今シーズンは、まだそれらしい極冠を見ていない人が多く、混乱しているようです。 北極冠はこれからますます見えにくくなっていきます。 また、南極フードは今シーズンの終わりごろまで、今のような見え方が続くでしょう。

[図1] Propontis付近に発生したダストストーム
左) 発生時の様子。矢印の先の明るいところがダストストーム。右) 1日おいて南に広がったダストストーム。撮像:クライド・フォスター氏(ナミビア、35cm)

木星

観測シーズンは最終盤を迎えていますが、木星面では先月号で触れたように、北赤道縞(NEB)の拡幅現象が発生しています。 北部が淡化して細くなっていたNEBは、今シーズンを通して徐々に濃化復活し、ほぼ通常のベルト幅に戻りました。

ところが1月中旬にII=180°前後にある2つのループ模様の南を、ベルト内部のリフト領域中にある小白斑が通過すると、相次いで東西に伸びる大きな明部に発達しました。 この活動によってNEB北縁が乱れて、周囲と色調が異なる暗斑やNTrZに暗条などが出現し、2月になると北熱帯(NTrZ)南部が暗く埋められて、NEB拡幅時と同じ北緯20°付近までベルトが北側へ広がってしまいました。

3月初旬の時点で拡幅した区間は、II=170〜220°の約50°の範囲にとどまっていますが、すぐ後方のII=270°前後には活動的なリフト領域があり、まもなく拡幅区間の南を通過します。 今後拡幅が全周に拡大する可能性がありますので、合前後のNEBの様相に注目しましょう。

オレンジ色の大赤斑(GRS)は少し後退してII=33°にあります。 輪郭がボヤけて見えるのは、条件が悪くなったせいかもしれません。 後方では南温帯縞北組織(STBn)が濃く伸びています。 この区間では南熱帯紐(STrB)と一体になっていて区別することができません。 2月は大赤斑前方でもSTBnが明瞭になっています。 STBnのジェットストリーム暗斑群の一部が大赤斑を越えているのかもしれません。

[図2] 大赤斑周辺の様子
NEBに活動的なリフト領域が見える。大赤斑前方ではSTBnが明瞭。イオの本体と影が経過中。撮像:伊藤了史氏(愛知県、30cm)
[図3] NEBの拡幅活動
リフト領域内の白斑(▼)2個が起点となって北縁が乱れ始め(左側はすでに発達中)、ひと月の間にベルトがひと回り幅広くなった。

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