夜明け前の東天には3惑星が相次いで昇ってきます。 最も早く昇るみずがめ座の土星は、6月12日に西矩となりました。 火星はうお座からおひつじ座へと進み、おうし座の木星が見える頃には、すっかり夜が明けて日の出を迎えます。
ここでは6月下旬までの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。
明け方の空では、肉眼でもはっきりと火星を見ることができるようになりました。 火星の季節は、ほぼ南半球の夏至にあたり、大気の動きが活発な季節になっています。
南極冠は5月末には良く見えていましたが。6月20日にはかなり小さくなりました。 ダストベールに覆われているので、眼視で見るのは難しくなってしまいました。 反対側に北極冠が見えてくるのは9月中旬くらいになります。
大規模なものはありませんでしたが、5月21日には発生したダストストームによって、Meridianiが淡くなっていました。 翌日には一旦元に戻ったのですが、25日には再び淡くなってしまいました。 南極冠が小さくなって、大気がダスティーになっています。 このような淡いダストの発生は、この時期によくある現象で、現在もこの傾向は南半球を中心に続いています。
5月29日に井上修氏(大阪府)は、Hellasの北縁が外に向かって広がっている様子を記録しました(図1)。 一見すると、何事もないように見えるのですが、位置をよく調べるとHellasの北縁がダストで見えなくなって北に広がった姿になっています。 この場所でダストストームが起こっていたのです。 2日後の5月31日には元の姿に戻り、短期間のローカルダストストームだったことが分かりました。 21日と同様、輪郭のはっきりしない、弱いダストストームでした。
南極冠の周囲にはリング状に取り巻くようにやや明るいバンドができています。 明らかにSolis Lacusの南側でよく見られます。 また、Mare Cimmeriumの南側でもよく見えます。 これらはダストでできていて、南極付近の風で乗って動くことがあります。
[図1] Hellas北縁のダストストーム |
矢印の先にローカルダストストームが見られる。撮像;井上修氏(大阪府、28cm) |
日の出前の土星の高度は50°近くに達します。 観測条件が良くなり、解像度の高い画像が得られるようになりました。
環の傾きは6月下旬に1.9°と、今年最小になりました。 画像で見る環は両端が鋭く尖っていて、土星の前面では極めて細く、南側に環の影が幅広く目立っています。 阿久津富夫氏(フィリピン)は、19日の画像で、環の影が一様な黒ではなく、A環に相当する外側がやや淡く、B環の影との間にカシニの空隙を通り抜けた太陽光によって、細い明帯ができている様子を捉えています。
土星の本体を見ると、環の両側に明るい赤道帯(EZ)が広がっています。 その外側には北赤道縞(NEB)や南赤道縞(SEB)などの縞模様が見られますが、解像度の高い画像では、無数とも思えるほどの縞で覆われています。
14日にはマイク・カラカス氏(カナダ)らが、衛星ティタンの土星面経過を捉えています。 軌道が真横を向くこの時期ならではの珍しい現象です。 ティタンの直径は5150kmで、木星のガニメデやカリストと同程度ですが、土星は木星よりも小さいので、相対的にとても大きく感じます。 ティタンの公転周期は15日なので、今後も観測のチャンスがあるでしょう。
[図2] 土星面を経過中のティタン |
南半球高緯度に見える大きな黒点がティタン。撮像:マイク・カラカス氏(カナダ、28cm) |
[図3] 環の影の中に見えるカシニの空隙 |
カシニの空隙を通った太陽光によって、環の影の中に細いすじが見える。A環の影とB環の影の暗さが違うこともわかる。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、45cm)、強調処理は筆者による。 |
木星は日の出前の東天に昇るようになり、2024-25シーズンが始まりました。 衝は12月7日で、観測の好機は秋から冬となります。 シーイング悪い季節となりますが、南中高度は東京で77°と天頂近くまで昇るので、ある程度緩和されることを期待しましょう。
木星面を見渡すと、II=56°にある大赤斑(GRS)が赤みが強くとても明瞭です。 後部の濃い暗柱(フック)はほとんど消失し、前方の南熱帯紐(STrB)も淡くなっています。 3月末のフック再形成に伴う暗部の活動は、合の間に収束したようです。 ただし、その際に生成されたSTrBはII=200〜300°台に明瞭に残っています。
拡幅が完了した北赤道縞(NEB)は、ほぼ全周で幅広く見えています。 合の間に拡幅がさらに進んだようで、ベルト北縁は北緯20°まで拡大し、北熱帯(NTrZ)の白斑は、すべてNEB北部に取り込まれてしまいました。
その他は木星面は先シーズン末と大きな変化はありません。 永続白斑BAはII=265°にあり、相変わらず輪郭はないものの周囲より明るく見えています。 明るい赤道帯(EZ)では濃く長く伸びたフェストゥーン(festoon)が多数見られます。 I=180°前後のEZ南部は、青みの強い暗部で乱れていて、特に赤外(IR)画像で目立っています。
[図4] 今シーズンの木星面 |
大赤斑が明瞭で、周囲の暗部の活動はほとんどなくなっている。撮像:宮崎勲氏(沖縄県、40cm) |
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