1970年代後半の大学生時代、私たち若手観測者は、木星の眼視観測で大きな成果
を上げたのですが、その後80年代に入ると行き詰まりを感じるようになります。
同じ時期に木星を間近で詳細に観測したボイジャー探査機と比較すると、自分た
ちの観測結果がとても貧弱に見えたことも一因ですが、木星になぜ縞模様がある
のか、なぜ大赤斑が存在するかといった基本的なことすら、ちゃんと分かってい
ないという事実に気がつきました。
そこで、当時日大生産工学部の助手であった森山茂先生(現教授・火星の大気が
専門)に指導してもらいながら、大気科学の勉強を始めました。休日を利用して
集まり、最新の論文を輪講したり、難しい数学的概念を教えあったりして、木星
大気に関する理解を深めて行きました。これを数年続けるうちに、私たちが何を
分かっていて、何を分からないのか明確になりました。
勉強会はどんどん深みにハマり、理科系の学生さん達に大気科学の手ほどきをす
る会も行われるようになりました。春の学校とか冬の学校といった名前の一泊二
日の合宿形式で、夜通し大気科学の講義を続けるというハードなものでしたが、
惑星大気への理解を飛躍的に深めることができ、大変有意義に感じたものです。
当初はメンバーが代わるがわる講師を務めていましたが、しだいに優秀な大学院
生達がセミナーの中枢を占めるようになり、名称もPASS(Planetary Atmospheric
Science Seminar)と呼ばれるようになりました。
それから長い年月が経ち、当時の大学院生達はプロの研究者となって、今や天文
学の中枢を担うようになっています。アマチュアを取り巻く環境は大きく変化し、
PASSの意義も紆余曲折を続けていますが、未来の研究者たちへの手ほどきとして、
これからもPASSを続けて行きたいと考えています。
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