天文ガイド 惑星サロン2011年7月号 (No.106)田部一志

森山ゼミと惑星大気物理セミナー(PASS)

1970年代後半の大学生時代、私たち若手観測者は、木星の眼視観測で大きな成果 を上げたのですが、その後80年代に入ると行き詰まりを感じるようになります。 同じ時期に木星を間近で詳細に観測したボイジャー探査機と比較すると、自分た ちの観測結果がとても貧弱に見えたことも一因ですが、木星になぜ縞模様がある のか、なぜ大赤斑が存在するかといった基本的なことすら、ちゃんと分かってい ないという事実に気がつきました。

そこで、当時日大生産工学部の助手であった森山茂先生(現教授・火星の大気が 専門)に指導してもらいながら、大気科学の勉強を始めました。休日を利用して 集まり、最新の論文を輪講したり、難しい数学的概念を教えあったりして、木星 大気に関する理解を深めて行きました。これを数年続けるうちに、私たちが何を 分かっていて、何を分からないのか明確になりました。

勉強会はどんどん深みにハマり、理科系の学生さん達に大気科学の手ほどきをす る会も行われるようになりました。春の学校とか冬の学校といった名前の一泊二 日の合宿形式で、夜通し大気科学の講義を続けるというハードなものでしたが、 惑星大気への理解を飛躍的に深めることができ、大変有意義に感じたものです。 当初はメンバーが代わるがわる講師を務めていましたが、しだいに優秀な大学院 生達がセミナーの中枢を占めるようになり、名称もPASS(Planetary Atmospheric Science Seminar)と呼ばれるようになりました。

それから長い年月が経ち、当時の大学院生達はプロの研究者となって、今や天文 学の中枢を担うようになっています。アマチュアを取り巻く環境は大きく変化し、 PASSの意義も紆余曲折を続けていますが、未来の研究者たちへの手ほどきとして、 これからもPASSを続けて行きたいと考えています。


[図1] 1984年に開かれた森山ゼミの様子
右端が森山先生、左隣が筆者。
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