STrZ白斑と大赤斑の衝突観測 −中間報告−

1997年5月26日

月惑星研究会関西支部 伊賀祐一


今シーズンに入ってからのSTrZの白斑の様相を、月惑星研究会関西支部の観測とInternetで公開されている画像から、中間報告としてまとめてみました。

2/19,20,27 : Pic du Midi
RS(ω2=62)の前方のω2=34に、SEBsに湾入しているSTrZの白斑が見えている。さらにその前方にももう一つの白斑がSEBsに湾入している。
http://megasn.obspm.fr/gll_pdm.html (E6 orbit)

3/2 : 伊賀(スケッチ)
今シーズン最初の観測だが、RSの前方にSTrZの白斑が見えているようだ。

3/30 : 安達・伊賀(スケッチ)
安達の観測ではRSの前方のSEBsに湾入した白斑が確認している。RSの南半分が明るい。伊賀の観測ではこの白斑は見えていない。
木星観測報告 No.3

4/2,3,5,10,11,12,14 : Pic du Midi
RSに迫ってきたSTrZの白斑が捉えられている。
http://megasn.obspm.fr/gll_pdm.html (G7 orbit)

4/4 : HST
violet WFPC2で撮影された画像で、1996年10月との比較である。RSの直前に迫っているSTrZの白斑の詳細がわかる。STrZ白斑の反時計回りの渦と、SEBsの東向きの気流が相互作用しながら、RSの反時計方向の巨大の渦にのみこまれる様子が見える。IJWのNewsletter(97/05/20)から参照できる。
http://atmos.nmsu.edu/ijw/ijw.html (Newsletter 97/05/20)

4/17 : 伊賀(スケッチ)
まだ観測条件が良くなく、眼視では確認できない。

4/24 : 伊賀(スケッチ)
シーイングが悪く、白斑は見えない。

4/28 : 浅田(CCD)
眼視ではSTrZの白斑とRS Bayが一体化して見える。CCD画像ではRS Bayの前端がしっかりとしているので、そのすぐ左のSEBsのぼやけたところがSTrZの白斑だとわかる。
木星観測報告No.4

5/5 : Pic du Midi
RS Bayの直前にSEBs Bayとして捉えられている。まだRSとの会合は始まっていないようだ。
http://megasn.obspm.fr/gll_pdm.html (G8 orbit)

5/5 : 伊賀(スケッチ)
RS Bayの前端の肩が凹んでいて、そこにSTrZの白斑が見える。
木星観測報告No.5

5/10 : 伊賀(スケッチ)
眼視ではSEBsもRS Bayも平常な姿に戻っている。STrZの白斑はRS Bayの中に取り込まれて、RSの北西に位置している。
木星観測報告No.5

5/10 : 浅田(CCD画像)
STrZの白斑はω2=47付近で、白斑の後端がRS Bayの前端に達している。まだRS Bayには取り込まれていない。
木星観測報告No.6

5/11 : Pic du Midi
RSの直前まで迫ったSTrZの白斑が捉えられている。白斑はSEBs Bayとしてではなく、RS Bayの前端が凹んでいるように見える。白斑の後端はRSと接している。
http://megasn.obspm.fr/gll_pdm.html (G8 orbit)

5/12 : 宮崎(CCD画像)
IJWのNewsletter(97/05/19)で報告されていて、STrZの白斑と大赤斑との衝突が始まったと言われている(画像は未公開)。
http://atmos.nmsu.edu/ijw/ijw.html (Newsletter 97/05/19)
5/15 : Don Parker(CCD画像)
IJWのNewsletter(97/05/19)で報告されているCCD画像。白斑の後端がRSの前端と接していて、白斑とRSとの衝突がまさに始まっている様子が捉えられている。
http://atmos.nmsu.edu/ijw/ijw.html (Newsletter 97/05/19)

5/17 : 安達・伊賀(スケッチ)・浅田(CCD画像)
伊賀の観測ではSTrZの白斑はどこにあるのか不明で、大赤斑の左下が明るいことが観測されている。RS Bayは平常の形状となっている。一方、安達の観測ではRSの北に2個の白斑が見え、RSの前端部がSTrZの白斑で、後方の白斑はRS Hollowで、条件が良いとさらに2個に分離して見える。浅田氏のCCD画像では、安達の観測と同じ位置にSTrZの白斑があり、RS Bayが西に伸びているように見える。
木星観測報告No.7

5/20 : 宮崎(CCD画像)
IJWのNewsletter(97/05/22)の報告。条件が少し悪いが、STrZの白斑はRS Bayの中に入っていて、SEBsの形状は平常に見える。STrZの白斑はRSの北西に位置していることを、宮崎の画像からHernandezが解析している。
http://atmos.nmsu.edu/ijw/ijw.html (Newsletter 97/05/22)

5/21 : Dedro Sada(Sketch)
IJWのNewsletter(97/05/22)から、McMath-Pierce 1.5m望遠鏡での部分スケッチで、STrZの白斑はRSの北西に位置している。
http://atmos.nmsu.edu/ijw/ijw.html (Newsletter 97/05/22)

5/22 : 伊賀(スケッチ)・浅田(CCD画像)
伊賀の観測ではSTrZの白斑は見えていないが、RSの左下が明るく、ここに白斑がいるのではとみている。また、この白斑に先行する領域と思われる明るい領域がRSの北側にあり、5/17の観測よりもさらに東に伸びている。一方浅田のCCD画像でも、STrZの白斑は検出されていない。RSの北が明るく写っているが、これは昨シーズンと同じ見え方かもしれない。
木星観測報告No.8

5/22 : Don Parker(CCD画像)
アメリカ月惑星観測者協会(ALPO)のJupiter Sectionに"Jupiter Observing Alert"として報告されているCCD画像。すでにSTrZの白斑は見えなくなっていて、大赤斑に取り込まれているようだ。大赤斑の北側が5/15の画像よりも明るくなっているが、白斑との衝突の影響かどうかは不明。
http://www.lpl.arizona.edu/alpo/ (Jupiter Section/Jupiter Observing Alert)


まとめ
STrZの白斑はSEBsに湾入してBayを形成してゆっくりと後退していました。この日までは白斑と大赤斑とは明確に分離されていました。5月10日(UT)頃から白斑の後端と大赤斑の前端が接するようになり、白斑がSEBsに湾入している後端部が見えなくなりました。いよいよ白斑と大赤斑との会合は始まったようです。この状態は5月17日(UT)まで続き、かろうじて眼視でも見えている状態でした。この日以降は大赤斑の北側を回る気流の中に取り込まれたようで、明確な白斑は眼視でもCCD画像でも見えなくなってしまいました(5/20,5/21,5/22)。大赤斑の北側が明るくなっていて、この中に白斑は埋もれているかもしれませんが、昨シーズンの大赤斑もこのような見え方をしていました。

5月22日(UT)の観測ではSTrZの白斑は見えなくなっていますが、この白斑は大赤斑の周りを取り巻く高速な気流に乗っているとすれば、数日で大赤斑の後端に達する可能性があります。この時に再び白斑が明るく見えるようになる可能性もあるでしょうし、Beebe氏らが予想するように、大赤斑が白斑からの物質を取り込んでしまい、大白斑に変わってしまうかもしれません。


月惑星研究会関西支部のHomePageへ戻る 木星セクションへ戻る