天文ガイド 惑星の近況 2020年5月号 (No.242)

堀川邦昭、安達誠


明け方の東南天には、火星−木星−土星の3大惑星が並んでいます。 高度が高くならないので、季節的に厳しい観測条件が続いています。

ここでは3月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

火星は相変わらず、地平高度が30°程度です。 木星が下から追い上げてきました。 視直径は5秒を超え、今までよりも大きくなった印象を受けます。 早く気流が良くなってほしいものです。

2月は、南極冠がいつから見えるか注目されました。 日本は気流が悪く、詳細な観測が困難な状況でしたが、海外の観測では2月中旬に南極冠か南極フードか判別は難しいものの、大きさからみて南極冠と思われるものが記録され始めました。

13日のクライド・フォスター(Clyde Foster)氏による画像は、南極冠と思われます(図1)。 まだ視直径が小さくわかりづらいですが、中央部がやや暗い特徴が見られます。 これから大きくなるにつれて、はっきりした画像が得られるものと思われます。

今までヘラスは白雲で明るかったのですが、2月26日の観測では暗くなっていました。 南極冠がはっきりしてきたこの時期、ヘラスが暗くなるのはいつものことですが、ヘラスの輪郭すらわからなくなりました。 どうやら南側にダストストームが広がり、ヘラスの輪郭や南極冠の縁が見えなくなっているようです。 注意して画像を点検すると一部は南極冠の中に入り込んでいるところがありました(図2)。 これは中規模のダストストームだと思われますが、極冠周辺の様子に特に注意が必要になりました。

[図1] 南極冠の出現
上部の白斑はアルギレ盆地にできた霜と思われる。その左側の白い帯が南極冠。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)
[図2] 極冠周辺のダストストーム
南極冠の右半分がダストストームに覆われている。ヘラスも暗い。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

木星

現在、大赤斑(GRS)と南赤道縞(SEB)南縁の後退リング暗斑群との会合が進行中です。 2月中旬からこれまでに大型のリング暗斑が4個、赤斑湾(RS bay)に進入しました。 昨年は同様の活動から大規模なフレーク現象に発展して注目されましたが、今回は今のところ大赤斑の周囲に灰色のブリッジや暗部が見られるだけで、大きな異変は起きていません。 大赤斑の前方にはまだリング暗斑が1〜2個残っているので、それらとの会合に注目しましょう。

SEBは南組織が濃く活動的であるのに対して、北部は淡く静かという異常なパターンが続いています。 大赤斑後方の白雲領域(post-GRS disturbance)が活動的なので、この状態はしばらく続くと思われます。 大赤斑前方に伸びる中央組織と南組織の間には2つの明部(white barge)があり、間のSEB南縁が大きく凹んでいます。 その後方ではSEB南縁のリング暗斑が多数存在しますが、前方では見られません。 昨シーズン後半に観測された南熱帯(STrZ)の2つの暗斑は消失してしまったようです。

II=86°に位置する永続白斑BAはリング状で赤みはありません。 前方には南温帯縞北組織(STBn)に沿って暗斑群が見られます。 後方に接するSTBの暗部は少し短くなり、後端部分の南温帯(STZ)には明るいリング白斑が見られます。 STB Spectreは相変わらず明るくゾーンと区別できません。 前端は上記のリング白斑の北、後端はII=270°付近にあるので、全長は150°を超えています。 濃化すれば長大なSTBが出現することでしょう。

今年の北赤道縞(NEB)は拡幅期が終わり通常の幅に戻っています。 体系II=0〜100°では北縁が著しく淡化して、ベルトが通常の半分程度しかありません。 2011年のように全周に渡って細くなるか注目されます。 ベルト北縁に見られる白斑は、長命なWSZがII=220°、WSaとWSbはII=130°前後に並んでいます。 ベルトが細くなって白斑が北熱帯(NTrZ)に出てしまって、あまり目立たないようです。

[図3] 大赤斑とBA周辺
(左)大赤斑はSEBsのリング暗斑との会合が続いているが、大きな変化は起きていない。撮像:熊森照明氏(大阪府、35cm)(右)BAは明るく赤みはない。前方でSTBnが濃化している。北部が淡化した細いNEBに注目。撮像:アンソニー・ウェズレー氏(オーストラリア、33cm)

土星

土星も新しい観測シーズンがスタートしました。 条件が悪いため、国内の観測はまだありません。

環の傾きが減少して、6年ぶりに土星本体が環からはみ出して見えるようになりました。 土星面では北極の周辺が強く赤みを帯びているのが注目されます。 赤化は昨シーズン末に目立つようになりました。 過去に数例しか観測されていないので、貴重な事例となりそうです。

[図4] 今シーズンの土星
環の傾きが小さくなり、久しぶりに南極地方が見えるようになった(上)。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

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