天文ガイド 惑星の近況 2020年6月号 (No.243)

堀川邦昭、安達誠


明け方の空に木・土・火の三大惑星が並んでいます。 3月下旬は細い月も加わって見事な眺めでした。 いつの間にか順番が入れ替わって、火星が一番下になっています。

ここでは4月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

2月中頃から3月初めまで、大赤斑(GRS)と南赤道縞(SEB)南縁を後退する大型のリング暗斑群との会合が続きました。 しかし、大規模なフレーク活動は起こらず、大赤斑は周囲に軽微な暗部やブリッジが見られるだけで、大きな変化は見られません。 その代わりに、3月に入ると後方のSEB南縁に大きなリング暗斑が出現しました。 リング暗斑は4月初めでも明瞭で、ゆっくりと大赤斑から遠ざかっています。

大赤斑の経度は3°後退してII=330°に達しました。 長径は13.2°と小さいのですが、フレークの影響かどうかは不明です。

II=70°に位置する永続白斑BAの前方では、南温帯縞(STB)北組織に沿って多数の暗斑が見られます。 これらはSTBnのジェットストリームに乗って1日当たり-2.5°のスピードで前進していて、先端部分の暗斑は大赤斑の南を通過中です。 暗斑群は過去に観測されたものと比べると、拡散した形状で隊列も乱れています。

暗斑群の中央付近、II=25°のSTB上に暗斑が見られます。 STBnのジェット暗斑群よりも少し南に寄っていて、ジェットストリームに乗らずに、BAと同じスピードで動いています。 昨年、BAの前方で見られたフィラメント領域が暗斑化したと思われます。 2月号の「南温帯縞の活動サイクル」で紹介したように、STBにはベルトの断片またはフィラメント領域(STBセグメント)が、概ね3つできる傾向があります。 2018年2月にSTB GhostがBA後部に接していた暗斑と衝突してベルト化して以来、STBセグメントは元Ghostの暗部とSTB Spectreの2つだけとなっています。 今回の暗斑の出現は新しいセグメントの形成と思われます。 2000年にBAができた時から数えると、この暗斑は7世代目のSTBセグメントとなります。

[図1] STBnのジェット暗斑
大赤斑とBAの間のSTBnに沿って暗斑群が並ぶ。中央付近には、STBの新しい暗斑やSEB南縁のリング暗斑も見られる。撮像:クリストファー・ゴー氏(フィリピン、35cm)
[図2] 大赤斑前方の状況
大赤斑は赤み強くやや小さめ。前方のSEB南縁の暗斑は少ない。SEB内部に大きな明部(white barge)が見られる。撮像:ティジャーノ・オリベッティー氏(タイ、50cm)

火星

2月26日に南極冠から噴き出したエッジダストストームが広がっていることを先月号で報告しましたが、その後は観測がなく、ダストストームを追跡できなくなってしまいました。 3月2日にブラジルのアバニ・ソアレス(Avani Soares)氏が、ヘラス周辺に広く拡散しているのを記録しています。

3月8日、ゼフィリアとアエオリス(シレーンの北)にダストストームが見つかりました(図3)。 今シーズン2回目です。 発見者は南アフリカのクライド・フォスター(Clyde Foster)氏です。 翌日には拡散していく様子が捉えられましたが、その後は観測がなく、今回も追跡はできませんでした。

3月17日に第3回目のダストストームが発生しました。 南極冠のエッジダストストームで、20日にかけて明瞭に記録されています(図4)。 その後、3月末にかけて主に西に広がり、ノアキス方面を覆いました。 また、25日にはアルギレの南東に別のエッジダストストームが発生し、発生後すぐに北に向かって進んでいきました。

極冠はシーイングが悪いと形までとらえることが難しいのですが、徐々に縮小しています。 これからダークフリンジがはっきりしてきて、形を記録しやすくなっていくことでしょう。 ただし、形を観測するには露出を控えめにする必要がありますので、撮像の際は注意して下さい。

国内は寒気の流入によって、よいシーイングがなく、各観測者は苦労しています。 早く、暖かくなってほしいものです。

[図3] シレーン北側のダストストーム
線の先がダストストーム。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)
[図4] 南極冠のエッジダストストーム
極冠から北(下)に垂れ下がっているのがダストストーム。撮像:ナイル・マクニール氏(オーストラリア、35cm)

土星

土星面では北極周辺の赤化が続いています。 北極の六角形模様の外側から青灰色をした北北温帯縞(NNTB)との間の領域が暗いオレンジ系の色調をしています。 そのため、赤や赤外の波長では、六角形模様がとても明瞭です。 3月末に複数の観測者が赤みを帯びた領域内部のIII=210°付近に白斑を捉えていますが、コントラストが低いので、追跡は難しいかもしれません。

環の外側には南極地方が顔を出していますが、3月はへりの部分が環の影で覆われて、全体を見ることができません。 影が環の後ろに隠れて、よく見えるようになるのは7月頃となりそうです。

[図5] 3月の土星
環の上に南極地方が出ているが、環の影があるため、見えるのは半分程度しかない。撮像:クライド・フォスター氏(南アフリカ、35cm)

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