天文ガイド 惑星の近況 2023年11月号 (No.284)

堀川邦昭


土星は8月28日にみずがめ座で衝を迎え、観測の好機となっています。 木星は9月4日におひつじ座で留となり、逆行に転じました。 観測時間帯は夜半から日の出までと、体力的に厳しい時期ですが、猛暑の中、晴天と好シーイングに恵まれ、大量の観測報告が寄せられています。

ここでは9月初めまでの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

木星

すでに新聞などで報じられて話題になっているように、8月28日16時46分(UT)頃、II=130°、北緯45°の北北北温帯縞(NNNTB)付近で、小天体の衝突によると思われる閃光現象が発生しました。 閃光現象の発生は2010年以来、10例目となります。

発生の第一報は石橋力氏(神奈川県)からで、B390フィルターで撮像中に閃光を捉えたとのことです。 次いで森田光治氏(滋賀県)からも、モニター上で閃光を見たとの連絡がありました。 その後の報告で、他にも大杉忠夫氏(石川県)、大田聡氏(沖縄県)、富田安明氏(群馬県)、関根正道氏(新潟県)、吉尾賢治氏(富山県)といった、多くの観測者がこの現象を捉えていることがわかりました。 日本での閃光観測は、一昨年10月の有松亘氏(京都大)に続いて3例目となります。

動画で確認すると、今回の閃光は継続時間が1〜3秒程度で、これまでの例と大差ありませんが、輝度はかなり高く、フレアのような乱れた輝点が周囲にいくつも現れています。 衛星のような丸い輝点が現れて消えるこれまでの例とは異なる特徴が見られます。 今後の専門家による解析に期待しましょう。 なお、閃光に伴う衝突痕は今回も残りませんでした。

木星面は概ね落ち着いた状況にあります。 大赤斑(GRS)と南赤道縞(SEB)南縁を後退する大型リングとの会合は、8月前半で一段落しました。 大赤斑を取り囲む暗部はしだいに痩せて衰えつつあり、前方に伸びるストリークは断片的になり、後部のスロープも途切れてしまいました。 大赤斑本体の形状や赤みに変化は見られませんが、今シーズンの平均長径は11.6°と、昨年よりさらに小さくなっているのが気がかりです。 経度は少し後退してII=40°を越えました。

北赤道縞(NEB)はII=250°で北縁に大きな凹みを作っている長命な白斑WSZから前方で拡幅状態にありますが、徐々に縮小して長さは30〜40°ほどになってしまいました。 WSZの後方でもNEBは太く見えていますが、完全な拡幅には至っていません。 拡幅区間前端のII=190°には大きな横長の茶色い暗斑であるバージ(barge)が形成されて、とても目立っています。

淡化消失した北温帯縞(NTB)では、ベルトが急激に濃化復活する現象であるNTBs jetstream outbreakの発生が警戒されています。 また、濃化したSEBでは激しい白雲活動であるmid-SEB outbreakが起きるのではないかと懸念されます。 しかし、どちらも今のところ平穏な状態が続いています。

[図1] 8月28日の閃光現象
撮像中に発生した閃光を捉えた、キャプチャー画面のスクリーンショット。中央下の光点が発生した閃光。青画像のため、木星面の模様は不鮮明である。右は拡大・強調処理した閃光部分。撮像:石橋力氏(神奈川県、31cm)
[図2] 木星面展開図(8月28日〜30日)
8月28日から30日までの7画像から作成した展開図に、閃光発生時の画像を合成した(右下の丸で囲った部分)。撮像:石橋力氏(神奈川県、31cm)、宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、佐々木一男氏(宮城県、40cm)、鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)、森田光治氏(滋賀県、32cm)、閃光部分は大杉忠夫氏(石川県、30cm)

土星

土星の環が衝効果によりとても明るく見えています。 8月12日にクリストフ・ペリエ氏(フランス)は、B環の中央外側を丸い暗斑のような模様が時間と共に移動するのを捉えました。 2011年以来、12年ぶりとなるスポークの出現です。

スポークは土星の環に現れる不規則な陰影で、1980年にボイジャー探査機によって発見されました。 今回は暗斑状でしたが、放射状の条(すじ)として見えることが多いため、スポークと呼ばれます。 環の傾きが小さい時期に現れる傾向があるため、今シーズンは出現が期待されていました。

同じスポークと思われる陰影は8月11日の堀内直氏(京都府)の画像でも確認でき、9月6日に入ってからも阿久津富夫氏(フィリピン)によって捉えられています。

土星本体では環の外側の南赤道縞(SEB)で白雲活動が発生しています。 8月26日のクリストファー・ゴー氏(フィリピン)の画像で見ると、III=250°付近でSEB内に白雲が広がり、乱れている様子がわかります。 木星面で見られるリフト領域に似ています。 この白雲領域は8月初めから活動していて、体系IIIに対して1日当たり-7°の割合で前進しているようです。 9月6日の時点では、III=170°前後に位置しています。

[図3] 12年ぶりに出現したスポーク
土星本体の右側、B環上にスポークが見える(▲)。右は拡大・強調画像。本体上部をテティスと影が経過中(▼)。その下にはSEBの白雲領域が見える。撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、45cm)

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