天文ガイド 惑星の近況 2024年12月号 (No.297)

堀川邦昭、安達誠


土星が9月9日にみずがめ座で衝を迎え、翌10日には木星がおうし座で西矩となりました。 火星はふたご座に進み、視直径は7'を超えました。 夜半前から明け方まで3惑星がそろい踏みで、観測者は寝不足の日々が続いています。

ここでは9月下旬までの惑星面についてまとめます。 この記事中では、日時は世界時(UT)、画像は南を上にしています。

火星

8月18日にChryse(35W, +10)で発生したダストストームは、南緯55°付近で西へ広がりました。 一部は南極域に入りましたが、地球から詳しい様子はわかりませんでした。

22日には、Solis Lacus(W90, -28)の北東部に非常に明るい光斑が出現しましたが、急速に衰退して、地域一帯を覆うベールになりました。 25日に発生したHellas(275〜315W, -30〜60)北部のダストストームは、最初から大きく広がった雲状で、30日頃までHellas盆地を回るように広がりましたが、その後は衰退してベール状になりました。

以上のような経過をたどり、Noachis(335〜10W, -25〜30)からSolis Lacus 付近まで、かなり濃いダストベールに覆われて、模様が見えにくい状態が続きました。

9月になると、18日にChryseとLunae Lacus(66W, +20)の西に新たなダストストームが発生しました。 Chryseのダストストームは21日頃に最も発達し、8月のダストストームと同じような経過をたどりました。 ただし、前回より規模が小さく、21日を境に衰退していきました。 一方、Lunae Lacus付近のダストストームは、かなり明るく発達したようですが、観測がなく、詳しい様子は分かりませんでした。

火星面でいつも問題になるのが北極冠で、極を覆う北極雲の間から、いつ見えるかが焦点です。 最初の疑わしい観測は8月7日で、Lsは308°でした。 例年だと315°付近が多いので、少し早かったようです。 その後は明らかに北極冠と思われる観測は少なく、全体が見える日はまだ先のようです。

[図1] Hellas北部のダストストーム
矢印の先の明るいところがダストストーム。赤画像。撮像:ニック・ヘイグ氏(英国、30cm)

木星

拡幅した北赤道縞(NEB)の北部には、7個の白斑が小窓のように並んでいます。 今月は、大赤斑(GRS)の北側に並んでいたWSCとWSEと呼ばれる2つの白斑が合体して注目されました。 シーズン初めから15〜20°の距離を保っていたのですが、8月半ば以降、急速に接近し、月末には前方のWSCが南へ、後方のWSEが北へ時計回りに回り合いながら合体を始めて、9月初めにはひとつの白斑になってしまいました。 NEB北部では新たな白斑の形成が続いているようです。 今後は隣接する場所にバージ(暗斑)が現れると予想されます。

赤道帯南部(EZs)の攪乱領域(SED)は、観測者の間で「本陣」と呼ばれている後端部にある南赤道縞(SEB)北縁のリフトが、I=350°付近まで後退しました。 今月はあまり活動的ではありませんが、リフトの出口にあるEZsの白斑が明るく目立ちます。 一方、II=200°台の中央部分は活動的で、青みのある暗条や明部が、眼視でもよく見ることができます。

大赤斑はII=61°に後退しました。 周囲の暗色模様はすっかり淡化して、オレンジ色の大赤斑本体がクリアに見えています。 8月から活動的だった後方のSEBの白雲領域(post-GRS disturbance)は、9月半ば以降、静かになりました。

[図2] NEB北部の白斑同士の合体
▲がWSC(左)とWSE(右)。下は合体する様子。わずか数日の間に合体が完了した。撮像:(上)永長英夫氏(兵庫県、35cm)、(下)宮崎勲氏(沖縄県、40cm)、エリック・シューセンバッハ氏(キュラソー島、35cm)、井上修氏(大阪府、28cm)
[図3] SEDの活動
▼がSED「本陣」のリフト。EZsにはフェストゥーン状の暗条がいくつも伸びている。撮像:鈴木邦彦氏(神奈川県、19cm)

土星

森田光治氏(滋賀県)は9月2日の画像で、土星のB環上にスポークの出現を捉えました。 スポークは昨シーズンも観測されましたが、今シーズンは環の傾きが小さく、観測が困難でした。 衝が近づき環が少し開いたことで捉えやすくなったようです。

8月後半の観測を精査すると、いくつかの画像でB環に同様の陰影が見られますし、ハッブル望遠鏡(HST)は、8月22日と23日にスポークを鮮明に捉えています。 スポークは9月後半になっても残っているようで、環の陰影が東西で非対称な画像が見られます。

特筆すべきは9月7日の西田和史氏(東京)の動画で、環の両側でスポークが見られます。 これまでのスポークは、すべて土星本体の右側(南が上で、環が公転で手前に向かって来る側)で観測されていて、環の反対側で捉えられたのは、今回が初めてです。

衝を境に環の平面に対する太陽と地球の位置関係が変わり、環の影が内側に見えるようになりました。 9月前半は衝効果により環が明るかったのですが、後半は元に戻ってしまいました。 今シーズンは衝効果の期間が短かったようです。

[図4] B環に出現したスポーク
矢印のところにスポークによる陰影が見られる。左上はスポーク部分を拡大・強調したもの。撮像:森田光治氏(滋賀県、32cm)

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