天文ガイド 惑星サロン
2024年11月号 (No.266)
長谷川均

SL9の思い出(1)

1994年にシューメーカー・レビー第9彗星(SL9)が木星に衝突してから30年になりました。 当時のことを懐かしく思い出します。

衝突が予想された際、どんな観測を行えば良いか、仲間たちと活発に議論しました。 私は、木星の上層大気に痕跡の雲ができるのではないかと考え、ぜひその観測に挑戦したいと思いました。 彗星は氷の塊なので、衝突時の爆発で氷が一旦昇華して高温のガスになり、再び冷えて凝結して氷の雲ができると考えたのです。 メタン吸収帯の波長で観測すれば、上層大気の雲は周囲から浮き出して見えるだろうというモデル計算も行いました。

幸運にも国立天文台岡山天体物理観測所(当時)の188cm望遠鏡と近赤外線分光撮像装置(OASIS)で観測する機会を得て、C核とK核で、衝突による増光をリアルタイムで目撃することができました。 メタンの吸収により木星本体を暗くして、衝突の発光を際立たせることに成功、衝突後には、確かにメタンバンドで明るい雲が現れました。 ただし、これは水の雲ではなく、彗星本体の岩石質の物質が再凝結したものと思われ、可視光でも暗い模様として観測されました。 観測後は、衝突時の光度変化や雲の分光観測などの解析を行い、いくつかの国際会議で発表することができました。

あれからもう30年、今年の7月には衝突30周年を記念するイベントで当時の観測メンバーと再会し、楽しい時間を過ごしました。

[図1] 188cm望遠鏡と観測メンバー
前列右から2人目が筆者。

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