天文ガイド 惑星サロン
2025年1月号 (No.268)
安達誠

SL9の思い出(3)

1994年の7月にシューメーカー・レビー第9彗星が木星に衝突するという情報は、事前にたくさん流れていて、自分も見てみたいものだと思っていました。

衝突の1週間くらい前に、自宅の天文台で観測する計画を練っていた時のことです。 福岡の大沢俊彦さんから電話が入ってきました。 一緒に観測させてほしいというのです。 ドームの中には30pニュートンがありますが、もう1台、移動観望用の30pニュートンがあるので、大沢さんの観測希望を受諾しました。

C核が衝突する当日の7月17日は、日没後、衝突場所が木星の左リムに沈む前に観測することができます。 3m上の天文台では大沢さんが観測し、地上は私が陣取りました。 息を凝らして木星を見つめましたが、シーイングは良くありません。 衝突しても、地球から見えるような変化はないかもしれないという予想も出ていました。 大沢さんは、シーイングが良くないので観測を断念すると、伝えてきました。

私もやめようかと思いましたが、あとから後悔するのも嫌なので、しぶとくアイピースをのぞき続けました。 するとSSTB付近に暗部が見えます。 ドーム内の30cmは倍率が高くできるので、急ぎ望遠鏡を変えて観測しました。 明らかに小さな暗部ができていました。 30分前には見えなかったC核の衝突痕でした。 急いで大沢さんに声をかけて確認観測をしてもらいました。 これが日本で最も早い衝突痕観測となりました。

シーイングが悪くても、のぞき続けることの大切さをこのときに学びました。

[図1] 日本で最初の衝突痕観測
1994年7月17日 10時52分UT 筆者観測。左リム近くの矢印で示した暗斑がC核痕。すぐ北側(下)に並んでいる2つの白斑は、永続白斑BCとDE。

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