ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が1999年 4月27日(UT)に撮影した青色光(410nm)画像で北極地方の巨大な嵐を捉えました。この嵐(storm)は北緯65度、経度85度に位置し、大きさは1600kmにも及んでいます。
- 参考URL:http://oposite.stsci.edu/pubinfo/pr/1999/22/index.html
この嵐を我々の観測とMarsWatch(http://www.astroleague.org/marswatch/)で公開されている画像から追跡を行いました。4月下旬頃、この経度は米国では観測できないタイミングで、ポルトガルのAntonio Jose Cidadao氏、オーストラリアのStefan Buda & Bratislav Curcic氏の観測と、我々のサイトの池村俊彦氏、忍穂井幸夫氏の観測しかありませんでした。これらの画像を下図にまとめてみました。
Date | CM | Observer | Comment |
4/20 14h51m(UT) | 32.9 | T.Ikemura | 特に変化無し |
4/22 13h02m(UT) | 348.4 | S.Buda&B.Curcic | 特に変化無し |
4/24 15h09m(UT) | 2.2 | T.Ikemura | 雲が西端に見える |
4/24 23h32m(UT) | 124.8 | A.J.Cidadao | 東端では雲は見えない |
4/26 15h58m(UT) | 356.6 | T.Ikemura | 雲が広がってみる。 |
4/27 14h14m(UT) | 322.3 | Y.Oshihoi | 雲がわずかに見える |
4/27 15h29m(UT) | 340.7 | Y.Oshihoi | 雲がわずかに見える |
4/28 23h23m(UT) | 87.9 | A.J.Cidadao | 雲は見えない |
5/07 00h25m(UT) | 24.0 | A.J.Cidadao | 雲は見えない |
この北極地方の嵐は、結果的に地上からは日本の池村氏と忍穂井氏の画像だけが明確に捉えています。最初の観測は4月24日の池村氏の画像で西端に雲が見えてきていますが、同日のA.J.Cidadao氏(ポルトガル)の画像では経度85度付近(北極冠の南東)には雲は見当たりません。4月26日の池村氏の画像では、やはり西端に雲が見え、24日よりも広がって観測されています。4月27日の忍穂井氏の画像では西端に雲が見えています。この画像の直後がハッブルの画像になります。4月28日のA.J.Cidadao氏の画像では、北極冠の南(上)付近に位置するはずですが、雲は検出できません。この経度が西にある5月7日のA.J.Cidadao氏の画像にも、朝曇は見られますがこの嵐の雲は見られません。4月28日以降の我々の観測は、気流が悪くなったことと、日本からは観測できない経度になり、残念ながら追跡することはできませんでした。
4月24日より前の観測画像には雲は検出できませんので、この嵐は4月24日から4月27日まで地上から観測されたようです。ただし、この嵐は西端の夜明けには観測されていますが、太陽高度が高くなると見えにくくなったようです。
その他の観測(月惑星研究会)-
4月24日の観測では池村氏の捉えた雲を安達誠氏(15h40mUT, CM=9)が眼視でも捉えています。
4月26日の観測では新川勝仁氏(16h19mUT, CM=2)も画像でこの雲を捉えています。
4月27日の観測では多くの観測者がこの嵐の雲を捉えています。安達誠氏(13h40mUT, CM=314)が眼視で北極冠の南西に明るい雲を捉えています。また忍穂井氏ほど明白ではありませんが、伊賀祐一(13h09mUT, CM=307)、根市満之氏(13h50mUT, CM=317)、新川勝仁氏(14h14mUT, CM=322)、奥田耕司氏(14h29mUT, CM=327)がそれぞれの画像でこの雲を捉えています。
Mars Global Surveyorの観測-
http://www.msss.com/mars/global_surveyor/camera/images/5_21_99_np_clouds/index.html
火星軌道を周回しているMars Global Surveyorが4月30日から5月4日までの5日間の北極地方の画像を、動画(AnimatedGIF, 1.8MB)として公開しています。
ちょうどHSTが撮影した後の画像ですが、このシーズンに北極地方を取り巻く雲の定常的な流れが渦を形成する様子が見事に捉えられています。
この期間に観測された情報をお持ちでしたら、お知らせください。
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