天文ガイド 惑星の近況 2000年6月号 (No.3)
伊賀祐一
木星:STB白斑の歴史

木星面で最も目立つ大赤斑は、1830年に観測されてから170年という長命な暗斑(1665-1713年に観測されたカッシニ斑点は別なものだと考えられています)で、現在も長径が20°(24000km)もの巨大な高気圧性の渦です。永続白斑も同様な高気圧性の渦で、1940年頃に長さが90°の明部として観測されました。1950年には長さが30°ほどの白斑となり、それぞれ永続白斑BC,DE,FAと名付けられました。「永続」する白斑と考えられましたが、その後も大きさは指数関数的に減少し、いずれは消失するのではないかと考えられていました。

1970年代に入ると長さは13°と縮小し、明るい白斑として見られるようになりました。図1は眼視による白斑のスケッチです。1974-75年頃は小口径の望遠鏡でも明るい白斑は目立っていました。1980年代にはFAは一時的に見えなくなりましたが、1992年から再び出現しました。

図1 眼視スケッチによる永続白斑

1994年:左にDE、右端にSTB Rift
1995年:左からBCDE。大赤斑右にSEB撹乱が7月に発生。
1993年:BCDEが接近。大赤斑左にSEB撹乱が発生。
1997年:BCDEFAが並んで見える。

STB白斑の合体

1990年からBC-DEの距離はますます狭くなり、15-20°の範囲で安定していましたが、1997年に大赤斑を通過してからは急速に接近を始めました。合の間の1998年3月に、BCとDEは合体したようですが、詳しいことは分りませんでした。

新しい白斑はBEと名付けられましたが、2つの渦の合体の影響のためか長さが10°ほどに大きくなり、図2のような五角形をした特異な形状をしていました。その後方のFAとの距離がさらに狭くなり、図3に示すような変化をたどり、2000年3月21日頃に2つの白斑は合体しました。図2の3月10日の画像ではBE/FAは分離して見えていますが、3月27日の画像では合体して一回り大きな白斑になったようです。シーズン終了の悪条件でしたが、合体までの過程をとらえることができて本当に幸運でした。

木星面で長命な渦同士が合体する過去の現象としては、1979年のボイジャー探査機による解析、1997年5月にSTrZ白斑が大赤斑に飲み込まれた際の観測、1998年3月のBC-DEの合体などがあります。今回のBE/FAが合体した新しい白斑が、これからどのような変化を見せるのでしょうか。またSTBに新しい活動が起こり、新世代の白斑が生まれるのでしょうか。来シーズンからの観測のテーマができました。

図2 合体前後のBEとFA(池村俊彦氏,30cm反射,NEC PICONA)

1999年8月 8日:BEとFAの間に時計回りの小白斑が見える。
2000年3月10日:BEとFAの距離は10°まで接近し、合体が近い。
2000年3月27日:BE/FAの合体後の白斑。

図3 BC-DE/BE-FAの経度差

BC-DEは1997年8月に大赤斑を通過すると、急速に接近し、1998年3月に合体した。
BE-FAは一度13°まで接近し、大赤斑通過時に16°まで開く。大赤斑通過後の2000年1月から急速に接近し、3月に合体した。両者とも似たような経度の変化を示しています。

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