天文ガイド 惑星の近況 2001年6月号 (No.15)
伊賀祐一
3月の惑星観測は、木星が21日間(のべ34人、58観測)、土星が4日間(のべ4人、4観測)、火星が11日間(のべ18人、28観測)、そして3月30日に内合を迎えた金星が6日間(のべ7人、7観測)でした。
木星の南熱帯の暗斑が消失
先月号でお伝えしたように、GRS(大赤斑)に急接近していたSTrZ(南熱帯)の暗斑が、3月9日UTにいよいよGRS前端に達し、その後GRSの周りの巨大な渦に巻き込まれたようです。

この暗斑は2月4日UTにII=46.9°に達した後、新たなSTrZのDark Streakと一体となり、後退速度が急に速くなりGRSに接近していました。3月9日UTの永長英夫氏の画像でII=59.6°に達し、同日の堀川邦昭氏のスケッチではGRS直前のSEBs(南赤道縞南組織)のこぶのように観測されました。その後の3月12日UTの永長氏・伊藤紀幸氏の画像には暗斑は見られず、GRSの周りの左回りの気流に飲み込まれたようです。2000年10月中旬に形成されたSTrZの暗斑は、図2に示すような経度変化を示し、そのドリフトが2ヶ所の矢印の時期に減速したり加速したりしました。

カッシーニ探査機による2000年10月31日〜11月9日UTの動画に、SEBsの暗斑がまさにGRSの気流に飲み込まれる様子が観測されていますが、今回の暗斑も同様な道筋をたどったものと思われます。

図2 STrZの暗斑のドリフト

2000年10月中旬に形成された暗斑は、11月中旬に減速し、2001年2月初めに加速。3月10日頃にGRSに巻き込まれた。

●SSTBの小白斑は無事に通過

SSTB(南南温帯縞)に見られる3個の小白斑が2月下旬にGRSの南方を通過しましたが、そのうちの2個の小白斑の距離が9°まで接近して注目されていました。STB(南温帯縞)にある3個の永続白斑が、接近することによって次々とマージし、最終的に'BA'と呼ぶ1個の白斑になっています。SSTBの小白斑にもマージが起こるかもしれないと期待していましたが、3月12日UT(伊藤氏)、16日UT(池村氏)、19日UT(伊藤氏)、24日UT(伊藤氏)の画像で、無事にGRSの南を通過し終えた様子がとらえられました。気流が悪く詳しいことは分りませんが、3個の小白斑は24日UTにはII=31,48,63°に位置しています。接近していた小白斑の距離が15°まで広がっていて、しばらくはこの状態が続きそうです。

●その他の木星面

STBの白斑'BA'は、3月11日UTにII=232.4°に観測されました。SEBは比較的穏やかで、SEB中央の明部も目立たなくなりました。NEB(北赤道縞)も幅が広いままで、bargeがII=20,170,255°に、またNTrZ(北熱帯)のII=180°にnotchが見られます。

写真1 2001年3月11/12/13日の木星展開図
撮影/伊藤紀幸氏(新潟県、60cmカセグレイン)、永長英夫氏(兵庫県、25cmニュートン)(拡大)
火星 (安達誠)
4月上旬には火星の視直径は10秒を越え、表面の模様の観測も十分できるようになりました(写真3)。火星はほぼ完全に赤道を真横から眺めた姿をしています。火星の世界では、目立つ模様のある南半球が冬を迎えており、南極冠の結成が始まっています。4月までの観測では南極付近に白い雲がかかり、水蒸気などが集まってきている様子がとらえられました。南極冠は5月になって最大の大きさになるはずですが、その結成過程は雲の中で見ることができませんが、時には南極の雲の切れ間などにその様子をかいま見ることができます。南極冠の結成過程はいまだに謎に包まれています。わずかなすき間から、貴重な情報を得たいものです。

火星を観測すると、雲の見えない日はありません。必ずどこかに雲があり、それを観測することがその面白さとなっています。南極の雲以外にも、北極にもわずかながら霧状の雲が認められています。また、赤道付近には帯状になった雲が東西に横切っています。また、オリンピア山のように高山で白い雲を頂いているものもあります。月惑星研究会では観測された画像やスケッチから図4のような地図を10日ごとに作成し、火星の雲の様子をまとめています。3月31日になってテンペに目立った雲が発生しました。これからはたくさんの雲の発生が予想されます。

写真3 2001年3月の火星

撮影/池村俊彦氏(名古屋市、31cmニュートン)

図4 2001年3月の火星の雲の動き
火星面に見られた雲の様子を示す。矢印は3月31日UTに見られたテンペの黄雲。作成/安達 誠(拡大)

■第25回木星会議

今シーズンの観測のまとめと研究発表、講演が下記の予定で開催されます。
日時:2001年5月19/20日
場所:神奈川県立青少年センター
連絡先田部一志  E-mail:tabe@yk.rim.or.jp
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