天文ガイド 惑星の近況 2001年7月号 (No.16)
伊賀祐一
4月の惑星観測は、夕方の低空に傾く木星が14日間(のべ22人、32観測)、土星が1日間(のべ1人、1観測)、そして6月に最接近を迎える火星が21日間(のべ49人、94観測)でした。
木星
2000年10月中旬に形成されたSTrZ(南熱帯)の暗斑は、先月号でお伝えしたように2001年3月12日頃にはGRS(大赤斑)の前端に達し、その後GRSに取り込まれてしまいました。図1にSTrZ暗斑の形成から消滅までの画像の展開図をまとめました。土星探査機カッシーニによる公開画像では、2000年10月1日には暗斑は見られず、10月9日頃までにSTrZのStreakから暗斑が形成されたようです。その後巨大な渦を形成し、次第に後退して、GRSに接近していきました。2001年2月上旬にSTrZのStreakの活動が再び活発になると同時に、暗斑の後退速度が増加しました。当初の予想よりは早い速度でGRSに接近し、3月12日にGRS前端部のこぶとして観測されたのを最後に、暗斑はGRSの周りの気流に飲み込まれたようです。3月24日の画像には暗斑は認められませんでした。
写真1 STrZ暗斑の形成から消失まで

撮影/前田和儀(KM)、永長英夫(HE)、伊藤紀幸(NI)
Damian Peach(DP)、Antonio Cidadao(AC)

今シーズン最後の観測は4月27日の伊藤紀幸氏でした。STB(南温帯縞)の白斑'BA'は、輝度はないもののかろうじて白斑としてとらえられ、4月23日にII=212.3°に位置しています。SSTB(南南温帯縞)の3個の小白斑も無事にGRS南方を通過しましたが、海外からの情報では再び接近を始めたようです。SEB(南赤道縞)は今シーズンは中央部が明化していましたが、11月頃から明部の縮小が始まりました。しかしながら、3月頃から再び明るくなり、4月には全周に渡って明化しています。

EZs(赤道帯南組織)に見られるGWS(大白斑)は4月6日にI=156.2°に見られ、1999年10月の発生から1年半という活動期間になり、1976-1989年の現象に匹敵する規模となりました。NEB(北赤道縞)には何本かのRiftが見られます。NEBnのII=20°と170°にはbargeがあり、後方のbargeの直後のNTrZ(北熱帯)のII=177°にはnotchが健在です。


写真1 2001年4月5/6/7日の木星展開図
撮影/伊藤紀幸氏(新潟県、60cmカセグレイン)、永長英夫氏(兵庫県、25cmニュートン)(拡大)

火星 (安達誠)
視直径は4月初めの10秒から月末の14秒と大きくなり、かなり小さな模様までとらえられ、火星面で起こるさまざまな現象も確認できるようになりました。

4月になり、火星はいよいよ南極冠が最大の大きさになる時を迎えました。残念なことに、南極地方は大きな雲(南極フード)に覆われており、最も謎に包まれている南極冠のできる過程は見ることができません。今月の観測は、フードの晴れ間からかいま見ることができるかもしれない南極冠付近に注目しました。

4月初め、日本からはソリスが眺められました。南極フードは明るく、所々北へ張り出したような姿をして観測されました。火星全面の中でも80°、130°、220°、300°付近が明るく観測された地域にあたります。南極冠に直接つながる可能性もあり、観測は慎重にすすめられました。予報では、4月初めに南極冠に太陽光線が当たるようになり、フードがなければ南極冠が見え始める可能性がありましたが、残念ながら4月にははっきりとした南極冠は見ることができませんでした。ただ、4月下旬には、気流の条件が良いときに南極の端が明るく輝く様子が時々とらえられています。

4月の中頃から赤道付近に広く覆っていた雲が淡くなり始め、火星の赤道付近は雲に覆われない本来の姿を観測できるようになってきました。これは、火星大気の水蒸気が南極冠に集中しているため、大気中の水蒸気が少なくなり、雲が発生しにくくなったことが原因です。この傾向は4月末まで続き、下旬にオリンピア山が見えるようになりましたが、これまで見られた明るい山岳雲はすっかり見えなくなり、位置の確認すら難しい状況でした。この傾向はおそらく5月中旬の、南極冠が最大になる時期まで続くと予想されます。また、この頃には南極冠が見え始めるときがやってくるでしょう。

写真3 2001年4月の火星

撮影/池村俊彦氏(名古屋市、31cmニュートン)

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