5月に南極冠の最大の時期を終え、6月は南極冠が縮小していく季節です。しかしながら、見かけの緯度が次第に北に偏っていき、南極冠は地球からは見えにくい位置になりました。大きくなった南極冠を観測しようと試みましたが、残念ながら、だれも南極冠らしい姿を認められませんでした。南極冠は最大の時期を過ぎますと、溶けはじめ(昇華しはじめ)ます。それにともない、南極付近は気圧が高くなり、火星大気は風が北に向かって吹くようになります。いよいよ砂嵐の時期が近づいてきたわけです。例年の接近では砂嵐はLsが200°を越えないと目立たないので、今月は砂嵐が起こっても小規模なものと考えていました。
6月27日の朝に米山誠一氏(横浜市)から、26日UTの観測画像と同時に砂嵐発生かという報告をいただきました。ちょうどこの頃梅雨の切れ目で、全国から多くの観測報告が寄せられていましたので、24日UT以降の展開図を作成してその日のうちにメーリングリストに砂嵐発生を伝えました。さらにこれまでの観測を調べたところ、6月23日UTの伊藤紀幸氏(新潟県)の画像に、チュレニー北部とヘラス北部に小さな黄雲が観測されたのが最初でした。24日UTには黄雲はやや拡大し、25日UTには2つの黄雲をつなぐように砂嵐が拡大しています。26日UTおよび27日UTと黄雲はさらに東に広がり、28日UTにはアウソニア北部と、大シルチスの東のリビヤにも明るい別な黄雲が発生しました(図1)。
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図1 火星:2001年大黄雲の発生初期の展開図 |
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6月23日UTに発生した黄雲が次第に東(左)に拡大しています。作成/伊賀祐一
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その後、この黄雲は急速に発達して7月中旬には火星全面を覆う大黄雲になりました。過去では例がない早い季節での発生です。黄雲発生初期の詳しい様子は、本号の特集記事を参考にしていただきたいのですが、砂嵐(ダストストーム)は約40km/日の速度で移動し、およそ21日間で火星を一周してしまいました。なお、火星の大黄雲は1956年、1971年、1973年と発生しており、今回の大黄雲は28年ぶりのことです。過去の2回は日本での観測が中心となりましたが、今回も幸運にも日本から観測することができました。ちなみに、アメリカで黄雲の前端が観測できるようになったのは7月3日UT以降、またヨーロッパで黄雲の後端が観測できるようになったのは7月2日UT以降でした。
このダストストームが発生する直前の北極地方は、水蒸気による雲の白色雲が広がっていましたが、その中にもダストストームが観測されています。画像でも肉眼でも白色雲とダストストームの黄色っぽい輝きとが並んで、対照的な光景を見せていました(図2、6月21日の画像参照)。このダストストームはハッブル望遠鏡でも鮮明にとらえられ、地上からの観測を補ってくれました。
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図2 大黄雲発生前の火星 |
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撮影/伊藤紀幸(新潟県、60cmカセグレイン、SONY DCR-TRV20) 池村俊彦(名古屋市、30cmニュートン、NEC PICONA)
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大黄雲が発生してから、火星面は暗色模様が見えなくなり、全面がのっぺりした火星面となって、観測は困難を極めています。肉眼でも画像でもどこをとらえているのかわからないからです。その上、雲と雲の間は明るさが落ちて暗くなり、黒い模様があるように見えてしまいます。これを、暗色模様として観測しないように十分気をつけてください。
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