天文ガイド 惑星の近況 2001年10月号 (No.19)
伊賀祐一
今年の梅雨明けは例年よりも早く、また天候も比較的安定していました。7月には、大黄雲の発生した火星を追跡するために、16名の観測者から29日間で237観測が報告されています。また、明け方の東天に並ぶ土星・金星・木星の観測も始まり、とても賑やかになってきました。土星は4名から6観測(5日間)、金星は3名から6観測(5日間)、木星は2名から15観測(10日間)が得られました。
火星:全面を覆った大黄雲 (安達 誠)
6月23日UT頃、チュレニー北部とヘラス北部に発生した黄雲が偏東風にのって東に広がり、南半球だけでなく北半球をも覆い尽くしていく大黄雲の様子はカラーページで紹介しています。今回の大黄雲の広がり方には3つのパターンがあります。一つは、南緯30°付近に次々に明るい光斑が発生して東に進行したもの、二つ目は、大シルチスの東のリビヤの光斑を起点として赤道付近を東に拡散したもの、そして三つ目は7月1日UTにエリシウム北部に発生した黄雲から東に広がって北半球を覆ったものです。最初の黄雲の発生場所から離れた場所で次々と黄雲が発生していくことと、黄雲の広がり方に3つのパターンが見つかったことで、全球的な大黄雲の発生メカニズムを探る重要な手がかりになることでしょう。

火星軌道を周回しているマーズ・グローバル・サーベイヤ(MGS)の放射温度計(TES)でとらえた大黄雲の様子がインターネットで公開されています(http://tes.la.asu.edu/)。このアリゾナ州立大学の赤外光の観測から求めた火星大気中のダスト分布のアニメーションは、アマチュアのCCD観測からまとめた大黄雲の広がる様子とよく一致しています。


写真1 7月の火星
ほとんどの経度が黄雲に覆われ、地表の模様が見えません。
撮影/TA:荒川 毅(奈良市、30cmニュートン、NECピコナ)
NI:伊藤紀幸(新潟県、60cmカセグレイン、SONY DCR-TRV20)
TI:池村俊彦(名古屋市、30cmニュートン、NECピコナ)
AK:風本明(京都市、20cmニュートン、NECピコナ)(拡大)

7月の火星の様子を写真1にまとめましたが、南極雲と北極雲を除いて、見事に黄雲に覆われています。いつものっぺらの黄色いボールを見ているようで、火星面の特徴的な模様を見ることはできませんでした。その中で、オリンポス山とタルシスの3つの高山だけが、大黄雲の上に飛び出していて、かなり黒い斑点として見えていました。 2〜3ヶ月の間は黄雲に覆われた状態が続くと思われますが、いつ晴れてくるかもしれません。これまでの観測では高度の高い山岳部の黒い地肌が見えているようですが、このような場所から晴れてくるかもしれません。また、黄雲が晴れたら、模様がどのように変化しているかに注目したいと思います。

木星の初観測
筆者は合の20日後の7月4日UTに木星の初観測を行いましたが、これは毎年の儀式みたいなものです。それでも過去には合の間に大きな変化が起こっていることも多く、特に昨シーズン淡化しつつあったSEB(南赤道縞)の様子がもっとも気がかりです。本格的な観測は7月下旬からになりましたが、SEBは、SEBs(南組織)とSEBn(北組織)が濃く、間のSEBZが明るく見えています。昨シーズンよりはやや淡くなってきているように思われます。
写真2 7月の木星

撮影/AK:風本明(京都市、20cmニュートン、NECピコナ)
YI:伊賀祐一(京都市、28cmSCT、NECピコナ)、

GRS(大赤斑)は7月22日UTに確認できましたが、オレンジ色の楕円形で昨シーズンと同様の姿で、また経度もII=74.5°と変化していません。STB(南温帯縞)にある白斑'BA'は、7月30日UTにII=170.6°にようやく確認できましたが、まったく輝度のない白斑でした。'BA'直後のSTBに暗斑があり、こちらの方が目立っていますが、これは昨シーズンは経度が40°ほどあったSTB本体が縮小したもののようです。また、II=350°付近からGRSの前方までのSTBが濃くなりつつあるようです。 NEB(北熱帯縞)は最も目立つベルトですが、内部には赤味の強い斑点Bargeや白いRiftが見られ、昨シーズン同様に活発な領域です。NEB南縁に見られていたFestoonが見られなくなっています。今シーズンの特徴として、NTB(北温帯縞)が全周にわたって濃くなっていることが挙げられます。

土星
今シーズンの土星は輪の傾きがさらに大きくなり、土星本体が輪の中に完全に包み込まれています。まだ条件に恵まれませんが、写真3に示すような美しい土星をぜひとも観望しましょう。
写真3 輪の広がった土星

撮影/風本明(京都市、20cmニュートン、NECピコナ)

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