天文ガイド 惑星の近況 2001年11月号 (No.20)
伊賀祐一
今年の夏は太平洋高気圧の勢力が早めに弱まり、8月は例年のような安定した気流に恵まれませんでした。特に台風11号の列島横断以降は、シーイングに恵まれずにいらいらする毎日でした。さて、8月の観測数ですが、夕方の火星が14名から23日間で108観測、明け方の木星が11名から69観測(21日間)、土星が6名から21観測(11日間)、金星が2名から7観測(5日間)が得られています。
火星:大黄雲の活動が続く (安達 誠)
日没時に南中を迎えるようになった火星は、視直径が8月初めの17秒から月末には13秒と小さくなりました。Lsは200°を超え、火星の季節では北半球が秋分を少し回った時期です。いつもなら南極冠が縮小していき、最大の直径の半分程度になります。また北極地方は水蒸気による白雲に覆われる季節です。

6月下旬に発生した大黄雲によって、火星全面がダストストームに覆われてしまい、8月も写真1に示すように表面の模様がほとんど見えない状況です。それでも注意深く観察すると、淡く暗い模様が見られます。8月初めは大シルチスの北側が、その後は自転によって東方のキンメリアやシレーンの一部地域が暗く見えていますが、ダストストームが弱まって下にあった本来の模様が見えてきたという訳でもなさそうです。8月12日の画像で、オリンピア山やタルチス地方の3つの高山などが黒い斑点として見られるように、ダストストームはこれらの高山の頂上までは達していないようです。またシルチス北部やソリス西方なども高度の高い地域で、この時期に暗い模様が見えることは高さと関連がありそうです。

さて、9月1日UTの画像ではいよいよ大シルチスの模様が見えるようになってきました。視直径が小さくなりますが、どのように模様が見えるようになるのか追跡したいものです。また、ダストストームに覆われていても、北極地方の白色雲は、南極冠が小さくなるにつれて次第にはっきりとしてきています。


写真1 8月の火星面
全面がダストストームに覆われているが、8月12日の中央左下にはオリンポス山が黒い斑点で見られる。
撮影/HE:永長英夫氏(兵庫県、25cmニュートン、NECピコナ)、
   TA:荒川 毅(奈良市、30cmニュートン、NECピコナ)、
   TI:池村俊彦(名古屋市、30cmニュートン、NECピコナ)
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木星:SEBがやや淡化か
8月末には日出時の高度も高くなり、写真2の展開図に示すように全周に渡った木星の様相が分かってきました。現在、もっとも注目しているのは淡化傾向の見られるSEB(南赤道縞)ですが、SEB中央部が明るくSEBZ(南赤道縞帯)が全周で形成されています。SEBs(南組織)には例年のようにいくつかの暗斑が連なり、一方SEBn(北組織)もやや幅広くなっています(写真3、8月14日)が、これからどのような現象をきっかけとして淡化していくのでしょうか。

写真2 8月12/13/14日の木星展開図
撮影/永長英夫氏(兵庫県、25cmニュートン、NECピコナ)、作成/著者(拡大)

SEBに対して、NEB(北赤道縞)は現在の木星でもっとも目立った赤味の強いベルトです。昨シーズンから幅が広くなっていましたが、今シーズンはNEBn(北組織)からNTrZ(北熱帯)にかけて一様に濃化しています。NEBnには赤茶色のbarge(バージ)が、II=50,145,180,240,280,345°と並んでいますが、NTrZの明るいnotch(ノッチ)はII=155°以外は目立ちません。NEB南縁によく見られた青いfestoon(フェストーン)が今シーズンは目立ちませんが、NEB内を斜めに横切る白いrift(リフト)は活発です。

STB(南温帯縞)に見られる白斑"BA"は、8月29日UTにII=156.9°に位置していますが、輝度が低く、その直後のSTBの暗部の方が目立ちます(写真3、8月18日)。この暗部は昨シーズンは40°ほどの長さがありましたが、急速に縮小しています。GRS(大赤斑)はII=76°で位置は変化していませんが、南半分のオレンジ色のコアが見られます(写真3、8月27日)。

今シーズンはNTB(北温帯縞)が全周に渡り細いベルトとして見られ、NNTB(北北温帯縞)には赤味のある濃化部がII=30-50°、130-170°、220°に見られます。


写真3 8月の木星面
撮影/永長英夫氏(兵庫県、25cmニュートン、NECピコナ)(拡大)
土星
今年はさらに輪の広がった土星(写真4)が見られますが、カッシニの空隙を通して土星本体がかすかに見えています。
写真4 8月の土星

撮影/新川勝仁氏(堺市、28cmシュミットカセグレイン、Minolta DimageEx1500)

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