天文ガイド 惑星の近況 2003年12月号 (No.45)
伊賀祐一
9月も大接近後の火星に観測が集中しました。9月下旬に秋雨前線の影響で1週間ぐらい観測が少ない時期がありましたが、まだ視直径が20秒を超える火星を堪能することができました。国内からは42人の観測者から28日間で876観測、海外からも20名の観測者から370観測の報告がありました。新しい観測シーズンを迎えた土星は21人(海外8人)から19日間で58観測、木星は7人から9日間で26観測でした。

火星:大接近後の状況
9月の火星は、南半球ではいよいよ盛夏を迎えました。9月の観測画像を画像1にまとめました。今年の火星面は、火星大気中にダストが漂っていたためか、全体的にコントラストが低いままでした。

南半球が暖かくなったために、南極冠は急速に縮小しています。ドライアイスの霜からできている季節的南極冠は、真の南極から偏芯していますが、その溶け方も一様ではありません。9月1/2日の画像ではチューレ山が溶け残り、南極冠内部に暗い筋が見られます。11日から17日の画像では、ミッチェル山がきれいに分離している姿が見られます。9月上旬のアメリカでの高解像度の画像(D.Parker、E.Grafton)によると、ミッチェル山が2-3個に分離している様子がとらえられています。ミッチェル山は日本からは9月18日に観測されたのが最後になり、その後はヨーロッパで9月25日にD.Peach氏(イギリス)、27日にC.Fattinnanzi氏(イタリア)の観測で完全に消失したものと思われます。


画像1 9月の火星面
撮影/熊森照明(堺市、20cm反射)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、畑中明利(三重県、40cmカセグレイン)、前田和義(京都府、35cm反射)(拡大)

今後の南極冠はさらに溶けて、(30W、86S)を中心とした永久南極冠だけが残ります。画像2はマーズ・グローバル・サーベイヤ(MGS)がとらえた2002年1月中旬の画像です。この画像はLs=309°に撮影されたもので、今年に換算すると11月末の季節に相当します。夏でも残っている永久南極冠は直径が420kmしかなく、この頃には視直径は11秒になってしまいます。いつまで南極冠が見えるのか、注目されます。

画像2 MGSのとらえた永久南極冠

画像提供/NASA(2002年1月15日撮影)

9月の特徴としては、朝霧や夕霧が目立つようになったことでしょう。極冠の縮小とともに、これらの霧が目立つようになることは良く知られていることですが、今回の接近でも同様な現象が見られました。朝霧は火星面西端(画像の右側)に見られ、青白く観測されます。また北極付近にも青白い極雲が見られ、特に9月11日や15日の画像では極雲が顕著でした。アルカディア地方を覆う極雲が短期間で姿を変える様子がとらえられました。

高山にかかる山岳雲は、オリンポス山・タルシス3山・エリシウムなどが有名ですが、今シーズンはタルシスの最南のアルシア山だけにかかる雲が観測されました(9月1日の画像)。この雲も火星面での午前には見られないで、午後から夕方に顕著になっています。もう一つ火星面で見られる雲に、低緯度地方の青白い氷晶雲がありますが、9月中旬にソリスからオーロラ湾にかけて観測されました。

木星:mid-SEB outbreak発生
2003-04年の新しい観測シーズンが始まりました。最初の観測は堀川邦昭氏(横浜市)と伊賀で、9月8日UTに行われ、地平高度は10度でした。8月22日の合の17日後の初観測になりました。

シーズン当初ながら、木星のSEB(南赤道縞)に異変の発生が報告されました。9月17日UTの堀川氏の観測では、暗く太いSEBnがII=190°付近から前方で途切れ、SEBZ(南赤道帯)が明るくなっています(画像3上段右)。堀川氏からmid-SEB outbreakと呼ぶSEB内の白斑突発現象の可能性を伝えるメールが流れました。9月26日UTには、大赤斑後方の観測が堀川(上段左)・伊賀(中段左)によって行われ、GRS後方でもSEBが明るくなっていることが分かりました。伊賀の画像では、II=130°付近のSEB内に斜めに横切る暗部が見られます。9月29日UT (下段右)の観測では、条件が悪い中ですが、II=185°から前方でSEBnが明るくなっている様子が確認されました。また、J.Hatton氏(米国)から9月21日UTの発生源付近の画像(中段右)が公開されました。これで、少なくとも60°の長さに渡ってSEBが明るくなっていることになり、過去のmid-SEB outbreakのドリフト(-1.7°/日)から考えると、8月22日UTの合かそれ以前に発生したものと予想されます。今後の詳細な観測で、この現象を追跡したいと思います。

画像3 シーズン初めの木星

撮影/堀川邦昭(横浜市、16cm反射)、伊賀祐一(京都市、28cmSCT)、J.Hatton(アメリカ)

これ以外の木星面は昨シーズンとあまり変わっていないようです(下段左)。NEB(北赤道縞)はやや幅が狭くなっているようです。NTB(北温帯縞)は淡化したままですが、条件が良いと細い痕跡が見られます。STB(南温帯縞)の暗い断片がII=280-330°に見られます。また、STB白斑'BA'はII=220°付近に位置するものと予想されますが、まだ確認されていません。GRSはII=90°に位置し、オレンジ色が強い様子がとらえられています。

土星:STB南縁小白斑出現
土星は夜半過ぎに東に昇ってきて、明け方にはかなり高度が高くなってきました。今シーズンの土星も、画像4に示すように、南に大きく傾いている姿を見せています。


画像4 今年の土星とSTBsの小白斑
撮影/(上)伊賀祐一(京都市、28cmSCT)、(下)風本 明(京都市、30cmニュートン)(拡大)

さて、9月13日UTのC. Pellier氏(フランス)の画像(18cm反射+ToUcam Pro)でSTB(南温帯縞)南縁に小白斑が出現している事を、BAAのD. Peach氏(イギリス)が指摘しました。小白斑は南緯41度、経度はIII=200度で、STB南縁に位置しています。これはかなり小さな白斑で、観測条件に恵まれないと検出できない対象です。続いて9月17日UTのPellier氏の画像でもIII=205度に確認されましたが、その後は良い条件に恵まれずにいます。国内では、9月11日UTの伊賀の画像に、かろうじて小白斑が見られました。画像4の右側の強調画像ではじめて分かる程度のもので、ノイズに埋もれてしまう限界でした。経度や緯度の一致から、ほぼ同じものと考えられます。

こうした土星の中緯度帯での小白斑の出現は、最近では2002年9月と12月に観測されていますが、寿命は半月から1ヶ月程度と短いものです。WebCamなどの新しい観測技術によって、地上からもとらえやすくなっているのは事実です。2004年7月には、NASAの土星探査機カッシーニがいよいよ土星に到着します。地上観測との連携といった観点から、アマチュアとしても継続的な監視が必要でしょう。

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