天文ガイド 惑星の近況 2004年2月号 (No.47)
伊賀祐一
2003年11月は例年に比べるとやや暖かい気候でしたが、大陸からのジェット気流に悩まされる季節になりました。火星の大接近は夏場の好シーイングの時期にあたり、かなり満足できる成果を得られました。その時を思うと、視直径が15秒を切ると特にシーイングの影響が大きいと感じてしまいます。火星の観測報告は、国内観測者が25人から22日間で263観測、海外から11人で95観測、合計で358観測でした。また、1月1日に衝をむかえる土星は30人から23日間で116観測(そのうち海外は13人で43観測)、朝方の木星は28人から25日間で120観測(そのうち海外は11人で29観測)を受け取りました。

火星:南極冠はいつまで見えるか
火星は、月初めに15秒だった視直径が月末には11秒まで小さくなりました。大接近時と比べてずいぶんと小さくなったと実感しますが、観測機材の進歩のおかげでまだ細かな模様までとらえられています(画像1)。


画像1 2003年11月の火星面
撮影/池村俊彦(名古屋市、31cm反射)、荒川 毅(奈良市、30cm反射)、瀧本郁夫(香川県、31cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、畑中明利(三重県、40cmカセグレイン)(拡大)

火星の季節を示す太陽黄経Lsは290〜308°で、南半球では盛夏をむかえました。画像を見ると、まず眼につくのは南極冠の縮小です。ドライアイスの霜からできている季節的南極冠は、夏には大気温度が上昇すると溶けて(昇華)、最後には直径420kmの永久南極冠だけが残ります。過去の地上からの観測では、Ls=310°ぐらいまでしか南極冠は確認できませんでした。これは今シーズンでは11月末に相当しますが、画像ではまだしっかりとした南極冠をとらえています。南極冠は12月中旬頃には最小になると予想されますが、ToUcam PROのおかげかもしれませんが、まだしばらくは追跡できそうです。

火星の大黄雲は過去には南半球の春から夏にかけて発生していますが、これまでに観測された中で最も遅く発生したのは、1973年のソリス大黄雲で、このときのLsは300°でした。11月中旬にはこの季節を過ぎてしまいましたので、残念ながら全球的な大黄雲の発生は起こらなかったことになります。今シーズンは、7月1日にヘラス北部で地域的黄雲が発生し、さらに7月29日にクリセでも地域的黄雲が発生しました。これによって、大気中に巻き上げられた砂の粒子は、長い間漂っていたと考えられます。このために、今シーズンの火星は眼視で見る限りでは、非常にコントラストの低いままでした。しかしながら、大気上層をおおう浮遊ダストのために、逆に地表面が暖められにくく、全球をおおうほどの規模の黄雲が発生しなかったと言えるかもしれません。

その他の火星面では特に変化は見られませんでした。火星の西端(画像の右)には青白い朝霧が発生している様子が見られ、シルチスやソリス付近ではかなり太陽高度が高くなるまで残っていました。また、北極地方をおおう北極雲も期間中ずっと見られました。

木星:mid-SEB outbreak続く
合の頃に発生したと予想されるmid-SEB outbreak(南赤道縞内の白斑突発現象)は、11月も活発な様子が見られます。画像2の@は、mid-SEB outbreakの発生源が右端にあり、左端に見える大赤斑(GRS)までの活動領域を一度に見ることができます。発生源からの白斑が左へ前進し、SEB(南赤道縞)の北半分を埋め尽くしています。ただ、発生源の経度が9-10月にはII=190°付近で一定でしたが、11月に入ると次第に発生源は前方に移動し、月末にはII=165°になっています。前回の2002年12月のmid-SEB outbreakでは、発生後3ヶ月ほどで発生源からの白斑の供給がなくなり、活動は急速に弱まりました。今回もすでに発生後3ヶ月が経ち、もしかすると活動の終焉を迎えつつあるのかもしれません。


画像2 2003年11月の木星面
撮影/@AB福井英人(京都市、25cmミューロン)、C永長英夫(兵庫県、25cm反射)(拡大)

@の画像には、大赤斑後方のII=140°のSTBs(南温帯縞南組織)に丸い小暗斑があります。この緯度にはたまに出現するきれいな渦暗斑です。この後方のSSTB(南南温帯縞)には、Aの画像に示すように、4個の小白斑が60°の範囲に並んでいます。昨シーズンは5個の小白斑が90°の範囲に集まっていましたが、新たな白斑どうしのマージが起こったのかもしれません。また、Aの画像の右端にSTB白斑'BA'が見られます。経度はII=207°で周囲を暗く囲まれていますが、'BA'は輝度がなく、白斑らしくありません。それよりも、NEB(北赤道縞)北縁の右端に見られる白斑'Z'の方が目立ちます。今シーズンのNEBは幅が狭くなっており、BやCの画像のように内部に白斑やリフトが活発に見える経度もあります。

Cの画像の中央には、大赤斑(GRS)がII=91°にあり、最近になくオレンジ色が強くなっています。一方、NTB(北温帯縞)以北には変化がなく、NTBは淡化したままであり、NNTB(北北温帯縞)にはところどころに暗斑が見られます。

土星:微細な模様の検出
11月7日UTに池村俊彦氏(名古屋市)が観測した土星画像に、III=240°のSEB(南赤道縞)内部の暗部やSTB(南温帯縞)の白斑がとらえられました。約1時間かけて撮影した11画像から作成されたアニメーションでは、これらの模様が自転にしたがって移動する様子がまとめられています。画像3でその一部を紹介しますが、日本の観測としては非常に優れたものです。ぜひとも、WEBからアニメーションをご覧下さい。

なお、このSTB白斑は9月13日にIII=200°で初めて観測されたものと同一であることを、スペインの天文学者A.S.Lavega氏が海外の観測者の高解像度画像の追跡で明らかにしています。7月にカッシーニ探査機がいよいよ土星に接近する予定で、今年は土星の話題が多くなりそうです。

画像3 土星の微細な模様の自転

撮影/池村俊彦(名古屋市、31cm反射)

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