天文ガイド 惑星の近況 2004年4月号 (No.49)
伊賀祐一
2004年1月の惑星観測をご紹介します。本格的な冬のシーズンですが、晴天数も多く、また月末には高シーイングに恵まれました。火星観測は国内観測者が23人から28日間で301観測(そのうち海外は10人で91観測)。1月1日に衝をむかえた土星は24人から30日間で217観測(そのうち海外は6人で77観測)、3月4日に衝をむかえる木星は45人から29日間で495観測(そのうち海外は21人で195観測)を受け取りました。

火星
夕方の西空にまだまだ高度のある火星ですが、大接近からずいぶんと経ち、視直径は8秒台から月末には7秒を切りました。瀧本郁夫氏(香川県)の25夜、永長英夫氏(兵庫県)の18夜、柚木健吉氏(堺市)の16夜を初め、まだ熱心な観測が続いています。

昨年12月9日にクリセに発生したダスト雲は、火星の全周の3/5ほどをおおうまでの大黄雲となりましたが、年末には活動が衰えてしまいました。1月に相次いで火星に着陸したNASAの2台の火星探査機スピリットとオポチュニティの活動への影響も心配されましたが、南半球が淡くダストにおおわれていたぐらいで、月末にはきれいに晴れ渡ったようです。

画像1 2004年1月の火星面

撮影/風本 明(京都市、30cm反射)、熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)

画像1に示すように、火星は普段の様子に戻ってきました。私たちの興味は、溶けていく南極冠がいつまで観測できて、そして永久南極冠がとらえられるのかにありました。南極冠は12月中旬頃に最小となると予想されていましたが、12月23日頃までは確実に観測できましたが、その後は大黄雲の影響やら経度が日本から見えない位置にありました。しかし、1月4日の風本明氏(京都市)や、非常に好条件に恵まれた1月29日の熊森照明氏(堺市)の画像では、永久南極冠が観測されています。今後は、北極雲の出現と、その下で形成されている北極冠の姿、そして北極地方でしばしば発生するダスト雲に注意したいと思います。

木星
1月27日から31日にかけて、関西地方は特別な高シーイングに恵まれました。冬場でも時折良い条件に当たる時がありますが、画像2のような高解像度画像を得られた永長英夫氏の努力はすばらしいものです。


画像2 2004年1月の木星
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)(拡大)

STBs(南温帯縞)の小暗斑がGRS(大赤斑)を追い越していく様子を画像3にまとめました。STBのジェット気流は多少大赤斑の周りの気流と影響をし合うのですが、STBsの緯度では大赤斑とは関係しないことが知られています。今回のSTBs暗斑は小さいながらもかなり濃いやや楕円形の模様ですが、見事に大赤斑の南を通過していきました。ただ、大赤斑の前方に回ると、この緯度の模様は不安定になる傾向があり、3月頃には何らかの影響が起こるのではないかと予想しています。STB白斑'BA'は、周囲を取り巻く暗部がやや前方に伸びています。'BA'の後方のSTBは、青味の強い領域は消失しましたが、全体としてベルトの濃化が起こり、'BA'から100°ほどの経度で濃いSTBが形成されています。

画像3 STBsの小暗斑

STBsの小暗斑が大赤斑の南を通過。
撮影/月惑星研究会関西支部

mid-SEB outbreak(南赤道縞内の白斑突発現象)は次第に勢力が弱まっていますが、II=160°付近の発生源から前方に白斑が供給されています。活動領域は次第に狭まってきました。 NEB(北赤道縞)は、II=330〜170°の200°ほどの経度で活発なrift(リフト)の活動が見られます。riftはNEB中央に発生した白斑が東西に引き伸ばされる現象で、穏やかだったNEBが再び活発になってきています。NEBの南縁のEZn(赤道帯)にも、活発な活動が観測されています。青味がかったfestoon(フェストーン)は、ここしばらくは見られなかった形状に変化し、所々に大きな白斑の活動が見られるようになりました。


画像4 2004年1月27/28日のの木星展開図
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)(拡大)

土星
土星は1月1日に衝を迎えました。画像5は衝の時と、それから1ヵ月後の土星です。リングに写る本体の影が、衝の時にはほとんど見えず、1ヵ月後にはそれまでとは反対の方向に投影されていることが分かります。SEBn(南赤道縞)やSTB(南温帯縞)には、小さな白斑が観測されています。新川勝仁氏(東京都)は、昨シーズンと比較するとSEBsが淡化したことを指摘しています。

画像5 2004年1月の土星

撮影/柚木健吉(堺市、20cm反射)、風本 明(京都市、30cm反射)

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