天文ガイド 惑星の近況 2004年6月号 (No.51)
伊賀祐一
2004年3月の惑星観測は、主要な惑星が夕方に集まっていることもあって、熱心な観測が行われました。宵の明星として見られた金星は11人から18日間で55観測(そのうち海外は4人で25観測)、火星観測は9人から19日間で65観測(そのうち海外は2人で3観測)と、土星は13人から21日間で75観測(そのうち海外は 7人で25観測)、3月4日に衝をむかえた木星は47人から31日間で821観測(そのうち海外は20人で315観測)を受け取りました。

この中で柚木健吉氏(堺市)の観測日数は特筆されるもので、火星16日、土星18日、木星18日とそれぞれの部門でトップでした。

木星

◆SEBn/EZs disturbance

2月下旬に発生したSEBn(南赤道縞)からEZs(赤道帯)にかけての異変は、先月号でお伝えしたように、SED(South Equatorial Disturbance)と呼ぶ撹乱現象であることが確認されました(画像1)。現象の発生当初は、SEBn内だけに白雲(あるいは明帯)が見られていましたが(2月25日〜2月29日)、3月に入るとSEBnの白雲からEZsをつなぐrift(リフト)が顕著になってきました。このSEDの活動の主体はEZsにあり、経度は発生時の2月25日にI=100°で、3月29日にはI=130°まで、第I系に対して+25.4°/月でゆっくりと後退しています。ただし、SEBの属している第II系に対しては1日に-6.9°と、かなりの速さで前進しています。このために、SEDの前進によって、SEBnは非常に青黒いベルトとなり、ところどころにベルトを分断する白斑が発生して、大きく乱れた様相を示しています。

このSED現象は、1976-1989年に長期間に渡って観測されたEZsの白斑(GWS)と同様であり、その後にも1999年10月から2002年3月までの期間にも観測されています。今回のSEDの自転周期は9h51m04sと、前回の1999-2002年に観測された9h51m19sに非常に近いものでした。この自転周期だと、4月9日頃に大赤斑(GRS)の北側を通過することになります。前回の観測では、SEDが大赤斑を通過する前後でGWSが顕著になる現象がしばしば観測されています。大赤斑との会合によるGWSの活性化が見られるか、注目したいと思います。


画像1 SEBn/EZs disturbance
SEBn/EZsの複合した撹乱が矢印で示すように急速に前進している。
撮影/月惑星研究会関西支部(拡大)

◆STBs小暗斑

STBs(南温帯縞)に2002年12月に生まれた小暗斑は、1月27日頃に大赤斑の南を通過しました。小暗斑の緯度が大赤斑に近いために、大赤斑の巨大な渦に影響を受けないかと心配もありましたが、過去の例に見られたように無事に大赤斑を通過しました。画像1の左上に、大赤斑付近のクローズアップを掲載していますが、大赤斑の右後方からSTBnの暗斑群が接近しています。このSTBでも北よりの緯度の暗斑は、大赤斑通過時に巨大な渦に巻き込まれる場合がありますが、STBs暗斑の緯度はさらに南で、大赤斑の影響が及ばないようです。ただし、大赤斑から離れるにつれて、小暗斑はさらに小さくなり、勢力が弱まってきているようです。過去にも大赤斑の前方50-60°付近で、STBが暗斑の連鎖に変化する現象がしばしば観測されています。この警戒領域に達するのは4月下旬です。

STB白斑'BA'は、3月28日にII=145°(永長氏画像から)にあり、周囲を取り巻く暗部が顕著になり、比較的見えやすくなりました。BAの後方のSTBは、長さが100°ほどの濃いベルトとして復活しつつあります。大赤斑はII=93°付近まで後退していますが、南側を暗いアーチ構造が取り巻いたりして、中央位置を見極めにくい状態です。中心にはオレンジ色の大赤斑のコアが見られます。


画像2 2004年3月の木星面
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)、風本 明(京都市、30cm反射)(拡大)

◆NEBのriftの活動

NEB(北赤道縞)はベルトの内部を斜めに白雲が横切るriftが活発です(画像2)。3月初めにはII=280-60°、月末には240-20°の140°の経度領域でriftが活発です。riftは第II系に対して早く前進していますので、NEB全体が活動的になったように感じます。月末には、これ以外の経度でも、NEB中央に明るい白斑が出現し、この白斑が東西に引き伸ばされてriftが形成されつつあります。一方、II=60,90,140,345°のNEB北縁には、NTrZ(北熱帯)に張り出した暗斑が出現しました。riftが通過することによって、NEB北縁はかなり凹凸が目立つようになり、新しいNEBの活動期に入ったようです。

火星
火星は、日没時に宵の明星の金星よりも高い高度にありましたが、視直径が月末には5秒を切ってしまいました。これは大接近をむかえる前では昨年の1月頃の視直径に相当します。ToUcam PROのおかげでしょうが、この視直径でも熱心な観測者から報告があります(画像3)。さすがに細かな模様まで追跡することは不可能になりましたが、大きな異変の監視という意味では大切な観測データです。火星面中央緯度Deは-9°となり、北半球の模様が見えやすくなっています。

画像3 2004年3月の火星

撮影/(上段)熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、(下段)永長英夫(兵庫県、25cm反射)

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