天文ガイド 惑星の近況 2004年7月号 (No.52)
伊賀祐一
2004年4月の惑星観測は、宵の明星として見られた金星は11人から19日間で130観測(そのうち海外は4人で6観測)、火星観測は7人から16日間で48観測(そのうち海外は2人で11観測)と、土星は6人から13日間で28観測(海外観測なし)、木星は56人から30日間で796観測(そのうち海外は22人で185観測)を受け取りました。金星は、6月8日に130年ぶりという日面経過が見られることもあってか、注目されました。

木星

◆SEBn/EZs disturbance

2月下旬に大赤斑(GRS)前方で発生したSEBn(南赤道縞)からEZs(赤道帯)への撹乱現象が、木星面を1周してきました。SEBn/EZsの撹乱現象は、9h51m04sという自転周期で、第I系に対して+0.84°/日でゆっくりと後退ですが、第II系に対しては-6.9°/日と相当速い前進を示します。予想されたように、4月9日に大赤斑の真北まで再び戻ってきました(画像1)。そして、大赤斑を通過後の4月11-13日には、SEBnからの白雲の噴出し口のようなriftが再度形成されました。

前回はriftの通過した後のSEBnは、青黒いベルトとそれを分断する白斑で埋められましたが、今回はそれほど大きな変化は生まれていません。また、1970-80年代や1999年に観測された同様な現象では、EZsに大白斑(GWS)が生まれましたが、今のところはSEBnへの軽い湾入が見られる程度です。過去の例でも何回かの周回を繰り返し、大赤斑を通過すると活性化するという現象が観測されていますので、次回の6月13日頃には注意したいものです。

画像1 SEBn/EZs disturbance

SEBn/EZsの撹乱がぐるりと1周して、再度大赤斑前方に進む。
撮影/月惑星研究会関西支部

◆大赤斑後方のSEBの活動

SEB(南赤道縞)には今シーズン初めから、mid-SEB outbreak(SEB内部の白斑突出現象)が観測されていましたが、2月にはほぼ終息したと考えられていました。ところが、4月21日にII=140°のSEB内部に明るい白斑が出現しました(画像2)。この白斑は、翌22日には斜めに伸ばされ、さらに24日になると、SEBnをも横切るようなriftに成長しました。mid-SEB outbreakの再発とも考えられましたが、大赤斑の後方から40度しか離れていないことと、その後の活動が穏やかであることから、定常的な大赤斑後方撹乱の活動と考えたほうが良さそうです。

画像2 大赤斑後方のSEBの活動

SEB内部に白斑が発生したが、大きな変化は見られなかった。
撮影/月惑星研究会関西支部

◆新しい活動期に入ったNEB

NEB(北赤道縞)は今シーズンはかなり変化の大きなベルトです。先月までにはNEBはすでに幅が狭くなり、昨シーズンまでにNEB北縁に見られていたバージや白斑はすっかり姿を消し、NEB内部を白雲が斜めに横切るriftが活発でした。riftが活発な領域は140°ほどの長さで、第II系に対して-85°/月というドリフトで前進をしていました。

3月中旬に、このリフト領域の後端部がII=80°に達した頃から、NEBに新しい変化が前方に広がっています。まず、NEB北縁にノコギリ状の暗部と明部とが繰り返す珍しい現象(画像3)が広がりました。4月下旬にはII=340-50°の範囲に及んでいます。そして、その領域内のNEB北縁のII=70、20、345°の暗部から放出された暗斑が、NTrZ(南熱帯)で左に折れ曲がって前進する様子がとらえられました。そして、NEBの幅が北に広くなりつつあります。

NEBは、現在リフト領域と、その後方のNEB拡張領域が並んでおり、4月末時点でII=150-80°とかなりの領域が活動的です。最近では1988年、1993年、1996年、2000年に起こった、NEBの拡幅現象が始まったと考えて良さそうです。

◆珍しい南極高緯度地方の模様

画像3に示すSPRは、南半球高緯度に見られた模様を示しています。左上の白斑は南緯61°、右下の暗斑は南緯56°に位置し、このような高緯度の模様が検出されるのは珍しいことです。白斑はほぼ停止していたようですが、暗斑が-27.2°/月で前進してきたために、現在は同じドリフトになっています。

画像3 2004年4月11日の木星

撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)

◆南温帯のBAとベルト

STB(南温帯縞)の白斑'BA'は、月末にはII=130°に位置し、このままま進むと大赤斑の南を6月下旬に通過する予定です。'BA'は、2002年2月の前回の大赤斑通過後、ドリフトがやや速くなっていましたが、9月ごろには逆に遅くなり、現在は元に戻りました。 1月下旬に大赤斑を通過したSTBsの小暗斑は、次第に大きさが縮小していますが、4月末にはII=33.8°に確認されました。

'BA'の後方のSTBは100°の長さに渡って復活しています。シーズン初めには、'BA'の後方は淡化していましたが、その後方の60°程の濃化部が前進を続け、2004年1月には間の淡化部が復活しました。さらに、'BA'から前方のSTBn(北組織)が復活しつつあります。近いうちにSTBが全周に渡って復活する日が近いのかもしれません。


画像4 2004年4月の木星展開図
撮影/永長英夫、池村俊彦(名古屋市)、風本 明(京都市)、熊森照明(堺市)(拡大)

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