天文ガイド 惑星の近況 2004年8月号 (No.53)
伊賀祐一
2004年5月は、中旬に天候不順で観測ができなかった期間があり、メンバーのいらだちの声を多く聞きました。金星は宵の明星で6月8日に内合、そして130年ぶりとなる金星日面経過をむかえるとあって、11人から20日間で78観測(そのうち海外は3人で34観測)の報告がありました。日面経過については次号でお伝えします。木星観測は38人から30日間で319観測(そのうち海外は17人で110観測)でしたが、次第に高度も下がっており、観測数は減少しつつあります。火星観測は視直径が4秒と非常に小さくなりましたが、5人から10日間で22観測と熱心な観測が続いています。土星も低空となり、観測は6人から10日間で18観測でした。

木星
木星は5月31日に東矩をむかえ、視直径も衝時の44.5秒から38.7秒となり、大きさ(面積)は3/4と小さくなりました。今月の木星の姿を画像1に示します。全体としては穏やかな様相ですが、NEB(北赤道縞)の活動が非常に活発であることが特徴でした。


画像1 2004年5月の木星
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)(拡大)

◆STB白斑'BA'

STB(南温帯縞)の白斑'BA'は、II=118.5°(5月27日の永長氏画像から計測)に位置し、周囲を暗く縁取られているので比較的見えやすい対象です。BAから前方へSTBnが細く伸び、GRS(大赤斑)の前方ではいくつかの暗斑が見られます。このSTBnはさらにぐるりと伸びてII=230°まで続きます。一方、BAから前方のSTBsも細いベルトが伸びており、高精細画像ではSSTB(南南温帯縞)とは分離した細いベルトがII=40°まで見られます。

BAは、5月下旬にはGRS後方20°に迫っており、このまま進むと7月上旬にはGRSの南を通過することになります。GRS通過によって、BAが消失することはないと思われますが、何らかの変化が起こる可能性があります。


画像2 2004年5月の木星展開図
撮影/永長英夫、福井英人氏(静岡県、25cm反射)、風本 明(京都市、31cm反射)(拡大)

◆STB

BAの後方は、II=230°までの長さ100°ほどの経度でSTBが復活しています。昨シーズンは、BA直後に長さ10°ほどの暗部と、100°ほど後方に長さ60°ほどのベルトがありました。後方のベルトの自転周期が速いために、2003年12月ごろには2つの領域の間は30°ほどに狭まり、2004年1月にはその間の領域も暗化して、一体としたベルトになってしまいました。BAのGRS通過によって、この領域も変化が予想されます。

SSTBには全周で6個の小白斑がありますが、II=170°の小白斑を除くと、II=310-40°の長さ90°の領域に5個の小白斑が集まっています。

GRSの南を通過したSTBs小暗斑は、4月21日に永長氏の画像でII=60.4°に確認されましたが、その後消失しました。この小暗斑は2002年12月初めに出現したもので、最初は丸く濃い暗斑でしたが、2004年2月にGRSの南を通過すると、次第に横長となり、大きさが縮小していたものです。消失した経度はGRSの前方35°付近で、STBの緯度の模様はしばしばこの経度で分裂することが観測されていました。

◆GRS後方のSEBの活動

先月号でお伝えしたように、4月21日にII=140°のSEB(南赤道縞)内部に明るい白斑が出現しました。そして、5月6日にも同じ経度のII=140°に新しい白斑が出現しました(画像3)。2003年8月の合の間にmid-SEB outbreakが出現しましたが、その発生源の経度はII=190°でした。2003年12月頃まで、発生源から新たな白斑が供給されて、GRS後方は白斑で埋められていました。その後はoutbreakの活動は衰えてしまい、3月下旬には通常のSEBの活動に戻っています。今回の4月と5月のII=140°の白斑発生は、その後に活発な白斑の活動が継続しなかったことと、GRSの後方で経度差が55°しかないことなどから、定常的な大赤斑後方の擾乱現象の活動と思われます。

また、SEBn/EZs disturbanceは今月は大きな変化は見られませんでした。5月25日にはI=188°にSEBnのrift(リフト)が見られるだけです。2月下旬に発生した撹乱部は、4月9日にほぼ1周してGRSの北側を通過しましたが、大きな変化は起こりませんでした。次回のGRS通過は6月中旬に見られます。

画像3 大赤斑後方のSEBの活動

12月の画像の矢印はmid-SEB outbreakの発生源
撮影/月惑星研究会関西支部

◆活発なNEB、拡幅期をむかえる

NEB(北赤道縞)には内部を斜めに横切る白いrift(リフト)構造が数多く見られます。riftは、NEB中央に明るい白斑が発生し、それが東西に引き伸ばされてできる現象です。画像4にNEBの様子を示しますが、12月下旬にII=210°付近の領域Aに白斑とriftが出現したのが始まりです。この白斑とriftはI系とII系の中間の自転周期9h54m15sを持っているために、画像4では左に速く移動すると同時に、活動領域が経度方向に広がります。こうして、最初の領域Aは1月下旬にはII=110-170°に拡張しました。3月には別な活動領域BとCが出現し、5月にはこの2つの領域はつながって大きなrift領域を形成しています。5月下旬にはII=20-250°の広い範囲がrift領域になっています。

このrift領域BがII=80°付近に到達したときに、NEB北縁に大きな変化が前方に波及しました。NEB北縁に暗部と明部が交互に繰り返した珍しいノコギリ状の経度長60°の領域が生まれ、その領域が前進します。さらに、NEB北縁に固定されたII=70,20,345°の暗部から流出した暗物質が、方向を左に変えてNTrZ(北熱帯)を埋めていきました。その結果として、5月末にはII=40-300°の経度でNEBが北に幅を広げています。


画像4 NEBの活動
撮影/月惑星研究会関西支部(拡大)

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