6月8日に日本では130年ぶりとなる金星の日面経過が見られました。この日面経過に備えて、内合寸前のアーク状の細い金星を撮影されたメンバーも多かったようです(画像1)。空梅雨を喜んでいましたが、残念ながら当日は梅雨前線が日本列島をすっぽりとおおってしまい、休暇まで取っていたメンバーは悔しい思いをしました。その中で、梅雨のない北海道では、阿久津弘明氏(旭川市、画像2)と、根室市のノサップ岬まで遠征をされた小山田博之氏(神奈川県)が成果をあげられました。その他の地域でも、雲間からわずかの時間に観測に成功されたのは、阿久津富夫氏(栃木県)、瀧本郁夫氏(香川県)、畑中明利氏(三重県)、福井英人氏(静岡県)、米山誠一氏(横浜市)でした。
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画像1 内合直前(6月5日)の金星 |
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撮影/熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)
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画像2 金星の日面経過 |
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撮影/阿久津弘明(旭川市、10cm屈折)
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金星の日面経過で私たちの最大の興味は、ブラックドロップ現象の観測でした。これは、金星が太陽面に入り込んでいるにもかかわらず、真っ黒い金星が太陽の縁からしずくのように垂れ下がって見える現象です。金星の大気によって引き起こされるのではないかと言われた時代もありますが、現在はかなり否定的な意見となっています。実際にどのように見えるのか、最近の観測機材で確認観測をねらっていました。しかしながら、国内の観測では条件が悪く、現象を確認するまでには至りませんでした。海外から月惑星研究会に報告された画像で、非常に好条件のP.Lazzarotti氏(イタリア)の観測があり(画像3)、これらの画像から判断するとブラックドロップ現象は起こらなかったと考えられます。また、NASAのTRACE探査衛星の公開画像でもこの現象は認められませんでした(http://vestige.lmsal.com/TRACE)。これらのことから、ブラックドロップ現象というのは、拡大率や光学系の収差やピントの問題であったり、シーイングが悪かったりといった観測条件によってもたらされたものではないかと考えられます。
画像3 金星の日面経過(第3接触) 撮影/P.Lazzarotti(イタリア、13cm屈折)(拡大) |
今回の日面経過で衝撃を受けたのは、R.Vandebergh氏(オランダ)の画像4に示す金星の光輪がとらえられたことです。この現象こそ、金星の大気を通して、向こう側の太陽光が回りこんできている現象だと考えられます。内合近辺では180度を超える細い金星が見られますが、日面経過時に観測できるとは予想もしていませんでした。
画像4 金星大気による光輪 撮影/R.Vandebergh(オランダ、15cm屈折)(拡大) |
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