天文ガイド 惑星の近況 2004年9月号 (No.54)
伊賀祐一
2004年6月は、空梅雨のおかげか比較的観測数は多い月となりました。西に高度を下げている木星観測は、26人から24日間で297観測(そのうち海外は8人で33観測)でした。6月8日に日面経過をむかえた金星観測は、19人から9日間で128観測(そのうち海外は3人で72観測)が集まりました。その他の惑星では、視直径が4秒を切った火星を2人(6日間、8観測)、土星1人(1観測)、天王星3人(4観測)、海王星1人(2観測)、さらに冥王星の位置移動を追跡した4人(9日間)から報告をいただきました。

金星の日面経過
6月8日に日本では130年ぶりとなる金星の日面経過が見られました。この日面経過に備えて、内合寸前のアーク状の細い金星を撮影されたメンバーも多かったようです(画像1)。空梅雨を喜んでいましたが、残念ながら当日は梅雨前線が日本列島をすっぽりとおおってしまい、休暇まで取っていたメンバーは悔しい思いをしました。その中で、梅雨のない北海道では、阿久津弘明氏(旭川市、画像2)と、根室市のノサップ岬まで遠征をされた小山田博之氏(神奈川県)が成果をあげられました。その他の地域でも、雲間からわずかの時間に観測に成功されたのは、阿久津富夫氏(栃木県)、瀧本郁夫氏(香川県)、畑中明利氏(三重県)、福井英人氏(静岡県)、米山誠一氏(横浜市)でした。

画像1 内合直前(6月5日)の金星

撮影/熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)

画像2 金星の日面経過

撮影/阿久津弘明(旭川市、10cm屈折)

金星の日面経過で私たちの最大の興味は、ブラックドロップ現象の観測でした。これは、金星が太陽面に入り込んでいるにもかかわらず、真っ黒い金星が太陽の縁からしずくのように垂れ下がって見える現象です。金星の大気によって引き起こされるのではないかと言われた時代もありますが、現在はかなり否定的な意見となっています。実際にどのように見えるのか、最近の観測機材で確認観測をねらっていました。しかしながら、国内の観測では条件が悪く、現象を確認するまでには至りませんでした。海外から月惑星研究会に報告された画像で、非常に好条件のP.Lazzarotti氏(イタリア)の観測があり(画像3)、これらの画像から判断するとブラックドロップ現象は起こらなかったと考えられます。また、NASAのTRACE探査衛星の公開画像でもこの現象は認められませんでした(http://vestige.lmsal.com/TRACE)。これらのことから、ブラックドロップ現象というのは、拡大率や光学系の収差やピントの問題であったり、シーイングが悪かったりといった観測条件によってもたらされたものではないかと考えられます。


画像3 金星の日面経過(第3接触)
撮影/P.Lazzarotti(イタリア、13cm屈折)(拡大)

今回の日面経過で衝撃を受けたのは、R.Vandebergh氏(オランダ)の画像4に示す金星の光輪がとらえられたことです。この現象こそ、金星の大気を通して、向こう側の太陽光が回りこんできている現象だと考えられます。内合近辺では180度を超える細い金星が見られますが、日面経過時に観測できるとは予想もしていませんでした。


画像4 金星大気による光輪
撮影/R.Vandebergh(オランダ、15cm屈折)(拡大)

木星
今シーズンの観測も終わりに近づいてきました。今月は、STB(南温帯縞)の白斑'BA'がGRS(大赤斑)の南を通過する現象に注目が集まりました。GRSに近づくにつれて次第に加速することが知られているSTB白斑ですが、BAは6月1日にII=115.1°(永長氏画像)、6月30日にはII=101.2°(福井氏画像)まで前進し、GRSのII=95.5°(瀧本氏)の後方まで迫っています。BAがGRSに接近してきた6月初めには、BAの直前に暗斑が出現しました。GRS通過によってBAが大きく変化することはないだろうと考えていますが、それよりも前後のSTBの変化が面白そうです。

NEB(北赤道縞)の内部に発生した白い筋状のrift(リフト)の活動が引き金となって、NEBは次第に北側に幅を広げていました。5月には全周の2/3が拡幅していましたが、6月にはほぼ全周に広がっています。NEBは近年では3年ごとに幅の拡張/縮小が繰り返されていますが、次のステージとしてはNEB北縁にバージやノッチなどの出現が予想されます。なお、1997年頃から継続していたNTrZ(北熱帯)のform'Z'と呼んでいる白斑が、6月22日にII=144.3°に達した後で見えなくなっています。一時的な現象ではないかと思われますが、形成されてすでに7年ほど経過していますので、注意が必要です。


画像5 2004年6月の木星展開図
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)(拡大)

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