天文ガイド 惑星の近況 2004年11月号 (No.56)
伊賀祐一
2004年8月の惑星観測の報告です。木星の2003-04年度の観測シーズンの最後となった観測が3人から7日間で19観測ありました。今期めざましい観測数を記録されている柚木健吉氏(堺市)は8月13日まで追跡されましたが、最終観測は福井英人氏(静岡県)の8月14日でした。木星は9月22日に合をむかえ、新しいシーズンの観測は10月中旬頃から始まるでしょう。これまで赤緯はプラスで、北半球の観測者にとっては恵まれていましたが、今後の6年間は赤緯はマイナスとなり、南天での低い高度での観測になります。

7月9日に合を終えた土星は、8月11日に林 敏夫氏(京都市)が初観測(高度22°)に成功されています。明けの明星の金星は8人から11日間で21観測(そのうち海外は4人で11観測)、8月28日に衝をむかえた天王星は8人から9日間で16観測(そのうち海外は6人で10観測)の報告をいただきました。

2003-04年の木星のベストショット2
先月号に引き続いて、2003-04年の木星観測から、国内のメンバー34名によるベストショット集の後半を掲載いたします(画像1、画像2)。2003年はWEBカメラであるToUcam PROが惑星観測に急速に普及した特筆すべき年でした。それは世紀の火星の大接近で大きな実績をあげてきましたが、木星などの他の惑星の観測にも大きな成果を残しています。Registaxというたいへんに優れた画像処理ソフトのおかげもあるでしょうが、これまで惑星観測の最大の敵であった「シーイング」の問題を超えることができたと言えるでしょう。動画による撮影によって、日本の冬場の悪気流の中でも中程度の画像が得られるようになったことや、たまに良気流に恵まれた時に見せる高分解能画像が世界のトップレベルに近くなったことなどが、大きな励みとなりました。こうした中でも、特に切れ味のある画像は、日頃から数多く観測を続けている観測者が占めているのも事実でした。


画像1 2003-04年の木星観測ベストショット(2)
撮影/月惑星研究会
今回は名前のABC順で、N-Zのメンバー18名の画像。(拡大)

もう1つの特徴として、WEBカメラによる新しい観測スタイルが生まれてきたことがあげられます。可視光できれいな画像が得られただけでなくて、惑星の大気の研究のためには、近赤外域やメタンバンドなどの様々な波長での画像が重要です(画像2)。


画像2 2003-04年の木星観測ベストショット(3)
撮影/月惑星研究会
近赤外やメタンバンドなどの撮影は惑星大気の研究にかかせない。(拡大)

金星の紫外観測
分厚い大気に包まれている金星は、可視光ではほとんど表面模様をとらえることができませんが、紫外域の波長では明らかな模様がとらえられます。画像3の撮影は、最近話題になっているATK-1HS(ATIK Instruments)カメラによるものです。このカメラはToUcam PROよりも感度が高く、また長時間露光にも対応しているモノクロCCDカメラです。紫外域での感度が高いので、U340などの紫外線透過フィルターを用いることで、表面模様をとらえることができます。金星の紫外線模様は、スーパーローテーションと呼ばれる秒速100mものジェット気流によって、4日という非常に短い周期で回転していることが知られています。

画像3 金星の紫外画像

撮影/C.Pellier(フランス、18cm反射)、阿久津富夫(栃木県、32cm反射)

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