天文ガイド 惑星の近況 2004年12月号 (No.57)
伊賀祐一
2004年9月の惑星観測の報告です。8月18日に西方最大離角となり日出時に高度が高い金星は10人から20日間で63観測(そのうち海外は8人で45観測)、7月9日に合を終えてぐんぐんと高度を上げている土星は12人から15日間で45観測(そのうち海外は6人で24観測)、8月28日に衝をむかえた天王星はR.Vandebergh氏(オランダ)から6日間で6観測の報告がありました。

速報:2004-05年の木星
木星は9月22日に太陽との合をむかえました。本来ならば観測はないのですが、10月6日UTに福井英人氏(静岡県)から新しいシーズンの初観測画像を送ってこられました(画像1)。これは合の15日後の観測で、高度は約10度でしかありません。このようなシーズン初観測を見ると、今年はどのような木星の姿を見せてくれるのか、どんな変わった現象が起こるのだろうか、と期待でわくわくします。

画像1 今シーズンの木星初観測画像

撮影/福井英人(静岡県、25cmミューロン)

画像2は、昨シーズン(2003-04年)の展開図です。それぞれの模様毎に、今シーズンの観測のポイントをあげてみましょう。


画像2 2003-04年の木星展開図
撮影/永長英夫(兵庫県、25cm反射)(拡大)

@SSTB〜STB

STB(南温帯縞)には、かつて3個の永続白斑がありましたが、現在はSTB白斑'BA'がただ一つだけ存在しています。次第に'BA'の大きさは縮小しており、いずれはこれも消失するかもしれません。7月にGRS(大赤斑)の南を通過する際には、'BA'の周りを暗いエッジが取り囲んで、比較的見えやすい状態でしたが、まずは存在を確認したいところです。この'BA'の直後の経度長90度の領域のSTBは濃いベルトとして観測されましたが、結構変化が大きな緯度ですし、新しいSTBの活動が始まるのかに注意したいと思います。SSTB(南南温帯縞)には、5個の小白斑が90度の範囲に並んでいましたが、小白斑どうしのマージ現象が過去4年間で3回も観測されていますので、今年はどうでしょうか。

ASTrZ〜SEB

STrZ(南熱帯)にはGRS(大赤斑)があり、オレンジ色の楕円形が目立ちます。昨シーズンは、ややオレンジ色が濃くなりました。SEB(南赤道縞)は、1993年の南赤道縞撹乱(SEB Disturbance)の発生以降はずっと安定した太いベルトの状態が続いています。撹乱が発生する前にはSEBが淡化しないといけません。SEBの淡化は詳しい観測が少ないので、ぜひともとらえたいと思っています。シーズン初めの観測としては、このSEBがどうなっているのかが最大のポイントです。

BNEB

NEB(北赤道縞)は、近年では3年を周期としてベルトの幅が広くなったり、狭くなったりを繰り返しています。昨シーズンは、NEBは北側に幅が広がり、拡幅期に入っています。今シーズンはNEBsに赤茶色のバージ(barge)やNTrZ(北熱帯)の白斑の湾入であるノッチ(notch)などが数多く見られるのでは予想されます。

CNTB〜NNTB

NTB(北温帯縞)は2002年12月に14年ぶりに淡化していて、NNTB(北北温帯縞)も濃いベルトは見られません。しばらく北半球はさびしい様相ですが、NTBsに見られるジェット気流(NTC-C)に発生する白斑あるいは暗斑に注意してください。このジェット気流は木星面で最も早い気流の一つで、明るい白斑の発生を契機に一気に全周に波及するような現象が起こる可能性があります。

さて、画像1の福井氏の観測ですが、これはIR740による赤外域画像です。STrZの中央右に白く見えるのが大赤斑で、赤外画像では白く写ります。経度は予想されていたII=95度付近に位置しています。注目していたSEBは、ここで見られる経度では濃いベルトのままで、昨シーズンと大きな変化はないようです。とはいえ、他の経度、特に大赤斑後方の様子がわかりませんので、今後とも注意が必要です。同様に昨シーズン幅の広がったNEBにも変化はないようで、SEBとNEBの2本の太いベルトが目立ちます。大赤斑の南にSTBが濃く見えていて、さらにその前方にくびれが見えますが、これはSTB白斑'BA'です。これまでのドリフトからII=50度に予想された位置に観測されました。まだまだ低空で条件に恵まれないでしょうが、いよいよ2004-05年のシーズンが始まりました。

土星:STrZに白斑出現
9月15日UTに、小石川正弘氏(仙台市)と阿久津富夫氏(栃木県)の二人のベテランの観測者から、土星のSTrZ(南熱帯)に白斑が発生していると報告を受け取りました。画像3の矢印に示すように、III=300度に明るい白斑が出現し、自転とともに移動しています。NASAの土星周回探査機カッシーニの公開画像を探すと、画像4が15日UTのもので、同じ緯度に白斑が撮影されていました。これが同じ白斑かどうかは不明ですが、地上観測との連携の成果と言えるでしょう。

画像3 土星のSTrZ白斑

撮影/小石川正弘(仙台市、26cm反射)、阿久津富夫(栃木県、32cm反射)

画像4 カッシーニ探査機のとらえた白斑

提供/NASA JPL

●金星の紫外観測
金星は紫外域か赤外域でしか表面模様はとらえられませんが、画像5はATK-1HSカメラによる紫外域観測画像です。図中の@とAは同日の画像で、二人の観測した模様は良く一致していて、再現性を評価することができます。下段は阿久津富夫氏の連続観測で、紫外域でとらえた金星の高層大気の変化が良く分かります。これらの模様は4日という非常に短い自転周期だと言われていますが、これを検証するためにはさらに多くの画像が、しかも世界的に集められる必要があります。

画像5 金星の紫外画像

撮影/阿久津富夫(栃木県、32cm反射)、福井英人(静岡県、25cmミューロン)

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