天文ガイド 惑星の近況 2005年8月号 (No.65)
伊賀祐一
2005年5月の惑星観測です。夕方の西空に高度を下げている土星の観測は、6人から13日間で30観測(そのうち海外は2人で3観測)で、7月24日に合をむかえます。4月に衝をむかえた木星の観測は、47人から31日間で926観測(そのうち海外は23人で240観測)と観測のピークをむかえました。朝方の南東の空で高度を上げている火星の観測は、19人から21日間で98観測(そのうち海外から11人で27観測)の報告がありました。

木星:2005年5月

@ STB白斑'BA'とSSTB白斑

STB(南温帯縞)白斑'BA'は、5月28日にII=310.0°(阿久津富夫氏画像から)に位置しています。図1に拡大画像を示しますが、BAの南のSSTB(南南温帯縞)には、5個の小白斑(反時計回りの渦)が経度長100°の中に並んでいます。BAA(英国天文協会)のJ.H. Rogers氏は、これらのSSTB白斑にA1からA5の符号を付けています。A2-A3の間と、A4-A5の間には時計回りの細長い白斑があります。BAの自転周期は9h55m24sで、一方のSSTB白斑の自転周期は9h55m05sとやや速く、このためにSSTB白斑がBAを追い越していきます。実際に、A1は4月20日に、A2は5月26日にBAの真南を通過しました。今後はA3が7月8日頃に通過する予想です。

画像1 木星:STB白斑'BA'とSSTB白斑

100°の経度の中にSSTB白斑が密集している。

先月号では、SSTB白斑の通過によってBAの形状に変化が起こっていることを紹介しました。逆にBA通過によって、SSTB白斑には影響が現れないでしょうか。SSTB白斑のドリフトを追跡すると、個々の白斑の位置は思っている以上にふらついています。そのために、SSTB白斑どうしの距離が変化し、近づいたり離れたりを繰り返しています。白斑の間に時計回りの渦ができたり、消失したりすることもあります。その結果、2000年10月、2002年2月にはSSTBの2つの白斑が合体をしました。1998年3月と2000年3月に観測されたSTB白斑の2回の合体は、大赤斑南方通過が引き金になった現象でした。私は、SSTB白斑の合体を引き起こすのはBA通過がきっかけではないかと考えています。今から半年間は、順番にSSTB白斑がBAを通過していきますので、注目しています。

A STBn暗斑

STBnジェット気流に乗ったSTBnの暗斑が高速に前進し、5月17日に大赤斑まで達しました(図2)。その後は、暗斑は大赤斑の渦に巻き込まれたのか、行方が分からなくなりました。図3にこの緯度の模様をプロットしていますが、大きな●が大赤斑を、白い○がBAを、小さな点がSTBn暗斑を示します。2月20日頃から、BAの前方に吹き出すSTBnの暗斑群が観測され、4月10日頃まで続きました。その後の暗斑の発生はなくなっていましたが、再び5月20日頃から活発になってきました。

画像2 木星:STBn暗斑

高速に移動する暗斑が大赤斑に達する。

BAから前方に広がるSTBn暗斑は、9h53m44sの自転周期を持つSTBnジェット気流に属していて、ドリフトは-85°/月と非常に高速です。これらの暗斑群の多くは、BAの前方100°ぐらいに達すると消失していますが、それでも3個の暗斑だけはもっと長く残りました。図2の大赤斑まで達した暗斑は、これらの暗斑群の初期に発生したものです。

図3のプロットで、BAの前方120°で平行に移動している暗斑がありますが、これはSTBに位置する暗斑です。2002年12月に出現し、その頃はもっと丸い暗斑でしたが、次第に形状が変化しています。図4ではII=190°にある淡いサメの背びれ状の模様です。しかし、この暗斑はもっと南のSSTBとつながっていて、何らかの相互作用が見られます。新しいSTBの活動につながるかもしれません。

画像3 STBn暗斑のドリフト・チャート



画像4 2005年5月1/3日の木星展開図
撮影/月惑星研究会関西支部(拡大)

火星:南極冠が見えてきた
今シーズンの火星の観測は、大接近の2003年と比べると少し早い季節を見ることになります。2003年5月(Ls=190°)に視直径が10秒を超えた時に、南極冠はすでに中央部が暗く見えていましたが、今年は4月11日(Ls=191°)に観測されました。さらに、南極冠の内部に割れ目(筋模様)が観測されたのが2003年6月中旬(Ls=206°)に対して、今年は5月12日(Ls=210°)でした。これらのように、今年の火星の季節変化は例年と同様な見え方をしているといえるでしょう。ただし、視直径は5月で7秒台とかなり小さいために、良条件に恵まれればこれから南極冠の縮小を追跡することができるでしょう。

5月28日(Ls=219°)のD.Parker氏の観測で、クサンテにダストストーム(黄雲)がとらえられました。2003年7月1日のヘラス北部の地域的黄雲の発生はLs=213°であり、ほぼ同じ季節に発生しています。今後、このダストストームがどのように発達するか、注意が必要です。

画像5 2005年5月の火星

撮影/D.Peach(イギリス、23.5cmSCT)、Z.Pujic(オーストラリア、31cm反射)、D.Parker(アメリカ、40cm反射)、永長英夫(兵庫県、25cm反射)、池村俊彦(名古屋市、31cm反射)

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