天文ガイド 惑星の近況 2006年5月号 (No.74)
伊賀祐一
2006年2月の惑星観測です。今月は寒さと悪シーイングためか、観測は低調でした。観測シーズンの終盤となった火星は、15人から17日間で150観測(そのうち海外から8人で78観測)、衝と白斑で話題になった土星の観測は、38人から25日間で314観測(そのうち海外から28人で159観測)でした。木星は、17人から20日間で141観測(そのうち海外から10人で44観測)、金星は5人から7日間で10観測(そのうち海外から3人で7観測)の報告がありました。

木星:活発なmid-SEB outbreak
12月18日に発生したmid-SEB outbreak(SEB中央の白斑突発現象)は、今月も活発な活動を続けています(画像1)。そのため、SEB(南赤道縞)は木星面でもっとも変化の激しいベルトとして観測されています。mid-SEB outbreakは、発生源から次々と白斑が供給され、経度減少方向(左)に白斑が拡がっていく現象です。白斑と白斑の間は濃い暗部で区切られ、特徴的な様相が見られます。

活動領域の後端部が発生源で、12月18日にはII=350°でしたが、発生源も少しずつ前進していて、2月末にはII=328°となっています(ドリフトは-9°/月)。outbreakの前端部は、かなり速く前進するので、1月末にII=285°、2月末にはII=230°に達しています。その結果、outbreakの白斑群は2月末には90°もの長さに拡がっています。前端部のドリフトは、1月末には-65°/月と予想しましたが、現在は-55°/月と前進速度はやや遅くなっています。それは、outbreakの白斑は前進すると、次第にSEBnに向かって細くなり、白斑の位置が分かりにくいからかもしれません。なお、2月13日にII=280°で明るい白斑の出現が見られました。


画像1 mid-SEB outbreakの発達(拡大)

大赤斑(GRS)はII=110°に位置し、南側に暗いアーチがかかっていますが、オレンジ色もあまり強くない状態です。GRS前方のSEBsは、かなり凸凹がありますが、気流が悪くて詳細は不明です。GRS後方のSEBには、もう一つのoutbreakの活動が見られます。12月にはII=180°に明るい白斑が出現し、1月には活動領域がII=210°まで拡がりました。しかしながら、2月に入ると白斑の活動は弱まっており、通常の大赤斑後方擾乱領域と区別ができなくなってしまいました。それより、後方からせまってきているoutbreakの白斑群が問題で、2つの活動が混ざり合ってしまうのか、それともきれいに分離したままなのか、3-4月の観測が興味深くなってきました。

画像2 STB白斑'BA' (2006年2月27日)

撮影/ Christopher Go氏(フィリピン、28cmSCT)

STB(南温帯縞)の白斑'BA'に異変が起こっています。2月27日にChristopher Go氏(フィリピン)から、BAが赤くなっているという報告がありました(画像2)。この内容はNASAニュース(3月4日)でも取り上げられ、大赤斑が赤いのは強大な渦巻きであることに関係しており、BAが赤くなることはBAも大赤斑と同様の勢力を持った渦になる可能性がある、と報じています。しかしながら、BAが合体する前の3個の永続白斑は、何年もの間姿が見えなくなったり、色が赤みを帯びた時期もあります。また、大赤斑も赤みが強くなったり、白くなって大赤斑孔になったりを繰り返してきました。これからBAがずっと赤くなるのかは、長い期間の観測が必要でしょう。我々の観測では、今回の赤みのあるBAは1月8日ごろからの現象のようです。


画像3 2006年2月24/25/27日の木星展開図
撮影/ 永長英夫氏(兵庫県、25cm反射)、C.Go(フィリピン、28cmSCT)、T.Olivetti(タイ、28cm反射)(拡大)

土星:STB北縁の白斑
1月23日にSTB北縁に白斑が出現したことは先月号で紹介しました。この白斑が土星大気中の雷雲現象であることを、NASAの土星周回探査機カッシーニが明らかにしました(画像4下)。カッシーニは1月23日から雷雲に起因すると思われる電磁波を受信していましたが、軌道の関係からようやく1月27日にこの雷雲の撮影に成功しました。カッシーニの画像は土星の夜側で撮られたもので、リングからの反射光で雷雲が写っています。雷雲の位置は、1月27日でIII=168°、緯度は-36°とあります。

地上からの観測では白斑として撮影されており、池村俊彦氏の1月28日の画像にある白斑の位置を計測したら、III=172°、緯度-39°でした。2月に入っても白斑は継続して観測されていますが、国内では冬場の悪条件でとらえにくい状況でした。フィリピン・セブ島に出張している阿久津富夫氏が2月25日に観測した画像(画像4上)では、III=190.9°、緯度-40.5°に位置しています。発生初期からは19°ほど後退しており、これは1日の後退速度が+0.68°に相当します。

画像4 土星の白斑

撮影/ 上:阿久津富夫氏(栃木県、28cmSCT)、下:NASA カッシーニ

火星 (安達 誠)
視直径は月末には7秒になり、観測条件は非常に厳しくなってきました。夜空では明るく見えますが、視直径は非常に小さくなり、その上、気流条件も悪く、日本国内での観測は難しい状況になりました。しかし、熱心な観測者はまだまだ火星を追いかけています。

2月はダストストームは見られず、1月までに比べ、穏やかな火星面でした。この時期、ダストストームが起こるかどうかと、北極冠が見 えるかどうかが関心事でした。

2月の観測(画像5)からは、北極冠がはっきりと分かったものはありませんでしたが、北極冠かと思われるものがいくつか観測されました(2月18日)。画像から、北極冠と即断はできませんが、大きさや位置を考えると北極冠だと考えてもおかしくはありません。今月は極雲が目立ち、南極方面には北極に負けないくらいの雲が発生しています(2月8日、21日)。南極方面も北極方面もどちらも明るく、特に青画像ではそれが良く分かります。

火星のDe(地球から見た火星中央緯度)は、しだいに赤道に近くなってきており、今までよりも北極地方が見やすくなってきています。気流状態がよければ、北極冠が見える可能性があるでしょう。

画像5 2006年2月の火星

撮影/ 熊森照明(堺市、60cmカセグレイン)、D.Peach(イギリス、35cmSCT)

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