天文ガイド 惑星の近況 2006年7月号 (No.76)
伊賀祐一
2006年4月の惑星観測です。今月は前半の天候不順と、晴れても黄砂の影響をまともに受けてしまいました。観測シーズンの終盤となった火星は、7人から15日間で67観測(そのうち海外から3人で39観測)、土星の観測は、19人から22日間で172観測(そのうち海外から13人で101観測)でした。5月5日に衝をむかえる木星は、42人から30日間で520観測(そのうち海外から28人で349観測)の報告がありました。
木星

@赤くなったSTB白斑"BA"

1月頃からSTB(南温帯縞)の白斑"BA"が赤くなり、3月にはその五角形をしたBAの内部にオレンジ色のコアが高解像度画像で確認されました。そして、そのコアの中心部は白く、BAコアはオレンジ色のドーナツの形状であることが分かってきました。これまで、メタンバンドでの画像で大赤斑とBAは両方とも明るいことから、どちらも木星の雲の上層部まで吹き上げる巨大な渦であることが知られています。そのBAが、大赤斑と同じく赤くなったことで、大赤斑のような巨大な渦の謎に迫ることができるかもしれません。

プロの研究者も注目するBAをとらえるために、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が撮影した木星が画像1です。HSTが木星を撮影するのは、実は久しぶりのことです。濃いオレンジ色のBAコアの詳細がとらえられていて、反時計回転の渦であることがよく分かります。BAコアの中央部がなぜ白いのか、この答えはまだ見つかっていません。

BAは4/28にはII=147°に位置していて、ドリフトは-12.5°/月でゆっくりと前進しています。一方、大赤斑の位置はほぼII=110°にありますから、BAが大赤斑の南を通過するのは7月です。2つの赤い斑点が衝突するのでは、と期待する人がおられるかもしれませんが、決してそのようなことは起こりません。BAは約2年ごとに大赤斑を追い越していて、いつも無事に通過しているからです。


画像1 HSTの撮影した赤いSTB白斑"BA"
画像提供/ NASA 撮影:2006年4月8日(拡大)

A大赤斑後方にせまるmid-SEB outbreak

2005年12月18日にII=350°に発生したmid-SEB outbreakは、4ヶ月を経過しました。活動の後端部が発生源で、今月はII=310-295°に前進しました(画像2)。mid-SEB outbreakの最も白斑の活動が見られるのは、発生源から前方100°の領域で、SEB(南赤道縞)の北側の2/3を白斑と青黒い暗柱で埋め尽くしています。II=200°を境界として、それより前方では、outbreakの活動は次第にSEBの北に狭まってきます。

さて、outbreakの活動の前端部はどこまで伸びているのでしょうか。3月は前端部を示す暗部がはっきりとしていましたが、4月に入ると境界が分かりにくくなりました。それは、outbreakの前端部が大赤斑後方まで迫ってきて、定常的に見られる大赤斑後方擾乱領域と区別がつかなくなったためです。II=160-140°の領域では、2つの活動が入り混じっているのではないかと思っています。

画像2 大赤斑後方にせまるmid-SEB outbreak

定常的な大赤斑後方擾乱と複雑に入り混じっている。

B大赤斑とdark streak

大赤斑の南側に暗いアーチがかかり、さらに大赤斑の前方のSTrZ(南熱帯)に細いdark streakが見られます。

CSTB〜SSTB

STBのII=300°には独立した丸い暗斑が出現し、この緯度の他の模様よりも速い-25°/月のドリフトで前進を続けています。STBnには非常に小さな暗斑が、4/3にII=53°、4/30にはII=325°とドリフトが-90°/月で高速に前進しています。

SSTB(南南温帯縞)には8個の小白斑があります。4月末の位置は、II=245、270、320、350、30、50、80、130°で、4-5番目の間と6-7番目の間には細長い明部(これは小白斑とは逆回転の渦領域)があります。


画像3 2006年4月13/15/16/17日の木星展開図(拡大)

DNEB

NEB(北赤道縞)は比較的穏やかなベルトです。NEB北縁には8個の白斑ノッチがありますが、長寿命の白斑"Z"はII=240°に位置しています。

土星
今月の土星は、白斑などの出現も観測されないで、穏やかな土星面でした(画像4)。1月23日に発生したSTB北縁の白斑は、3月には消失しました。リングに写る本体の影がずいぶんと大きくなり、観測シーズンの終盤をむかえています。太陽との合は8月8日です。

画像4 2006年4月23日の土星

撮影/ 永長英夫(兵庫県、25cm反射)

火星 (安達 誠)
4月の初めには6秒近くあった視直径は、月末にはとうとう4秒台になりました。数年も前なら、観測は事実上終了になるところですが、観測報告は日本の内外からまだ送られてきています。

気流の良い時には北極冠が記録され、眼視観測でもかろうじて確認できました。Lsは40度後半に入り、赤道付近には氷晶雲の見られる時期に入ってきました。4月26日のペリエ氏の青画像で、氷晶雲の姿が記録されています(画像5)。視直径が小さくても解像度の良い画像が撮影できると、重要な情報が得られます。数こそ少ないが、氷晶雲の発生時期について重要な情報です。

画像5 2006年4月の火星

撮影/ 永長英夫(兵庫県、25cm反射)、C.Pellier(フランス、21cmミューロン)

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