天文ガイド 惑星の近況 2006年9月号 (No.78)
伊賀祐一

2006年6月の惑星観測です。梅雨入りとなった今月は、晴れ間にもなかなか恵まれませんでした。木星は、55人から30日間で850観測(そのうち海外から37人で460観測)と多くの報告がありました。視直径が4秒台となった火星は、2人から6日間で7観測(海外から報告なし)、8月8日に合をむかえる土星の観測は、2人から2日間で2観測(そのうち海外から1人)でした。10月26日に外合となる金星はすべて海外からで4人から24日間で97観測でした。

木星

@STB白斑"BA"が大赤斑を通過中

赤化して注目されているSTB(南温帯縞)白斑"BA"が、大赤斑(GRS)の南を通過しています。1月から赤くなったBAは、その五角形のいびつな暗い縁取りの中に、オレンジ色のドーナツ状のコアが見られ、その様子は6月も変わりがありません(画像1左上)。

大赤斑とSTB白斑"BA"は、どちらも高気圧性の反時計回りの渦で、木星大気の上層まで物質を吹き上げていることが知られています。このことは、メタンバンドで撮影すると、明るく見えることから分かります(画像1左下)。木星大気のメタンで太陽光が吸収されるので、メタンバンドでは木星像は暗く写りますが、大気の高層にある雲(大赤斑やSTB白斑など)やヘイズ(赤道や極付近)は逆に明るく写ります。それまで白い斑点だったBAが大赤斑と同じ赤くなったのは、BAの渦の勢力(たとえば回転速度)が増したからだと言われています。

これまでSTB白斑と大赤斑は衝突することなく、2年に一度は通過を繰り返してきました。過去には、STB白斑が大赤斑を通過すると、STB白斑後方のベルトが淡化したり、逆にSTB白斑から前方にベルトが伸びる現象が観測されています。近年の高分解能画像では、BAの形が大赤斑通過で変化する様子が知られています。今回も、5月下旬からBAの前方の暗部が、南東(左上)方向に伸びている様子がとらえられました。さらに6月21日には、オレンジ・コアは変わりませんが、五角形の縁取りが横に引き伸ばされているようです。BAが大赤斑の真南を通過するのは7月13日頃と予想されます。はたして、BAは勢力を保ったまま、赤い斑点として、大赤斑を通過するでしょうか。


画像1 大赤斑に接近するSTB Oval "BA"
撮影/ D.Parker(アメリカ、40cm反射)、柚木健吉(堺市、20cm反射)(拡大)

A縮小しつつあるmid-SEB outbreak

2005年に発生したmid-SEB outbreakも6ヶ月を経過しました。outbreakの後端部に位置する発生源は、6月末にはII=230度まで前進しました。outbreakの白斑群は、大赤斑後方のII=130度までの長さ100度ほどに縮小しています(画像2)。明るい白斑の活動も少なく、このままだと8月末には発生源が大赤斑後方に達しますので、mid-SEB outbreakも活動の終焉となりそうです。


画像2 縮小するmid-SEB outbreakの活動(拡大)

BNEB北縁の白斑が合体か?

NEB(北赤道縞)北縁の長寿命な白斑"Z"が、同じ緯度にあるもう一つの白斑(BAAでは"Y"と呼ぶ)と衝突し、2つの白斑は合体(マージ)しようとしています。画像4のドリフト・チャートに示すように、白斑"Z"はその前方の白斑"Y"に急速に接近を続けていました。画像3に2つの白斑の接近の様子を示します。5月下旬に14度まで接近した後は、白斑"Z"の前進速度が少し遅くなりました。6月は2つの白斑はゆっくりと接近していましたが、24日に6度まで接近すると、白斑"Z"は北に、白斑"Y"は南に、緯度を変えています。29日には2つの白斑は合体したかのように1つに見えます。これが本当の合体かどうかは、7月の観測が明らかにしてくれるでしょう。

画像3 接近するNEB北縁の2つの白斑

急速に接近する白斑"Z"が前方の白斑"Y"とマージか?

画像4 NEB北縁の白斑のドリフトチャート

白丸が白斑"Z"、黒丸がNEB北縁の白斑。

1997年のNEB拡幅現象の際に、NEB北縁に生まれた5個の白斑のうち、経度II=50度の白斑が特異的に生き残ったものが白斑"Z"です。この緯度の白斑は通常は2-3年で消えてしまいますが、白斑"Z"はすでに10年を経過する長寿命な白斑です。白斑"Z"は、他のNEB北縁の白斑よりもかなり早く前進していて、10年間のうちに木星面を2周半も回っています。そのために、白斑"Z"がNEBの模様を追い越すわけですが、その時に茶褐色の暗斑bargeを加速したり、barge同士を合体させたり、ついにはbargeを消失させたりする現象が観測されています(特に顕著だったのは2001-02年)。不思議なことに、NEB北縁の白斑の合体現象は過去に観測されたことはありません。

ところが、10年間のドリフト・チャートをながめてみると、白斑"Z"と同じ緯度にあるNEB北縁の他の白斑を追い越すチャンスが数回ありました。しかしながら、そのタイミングはいずれも合に近い時期で、いつの間にか白斑の数が減っていました。たとえば、画像4で、2005年7月にII=305、320、350度にあった3個の白斑は、いずれも合の間に白斑"Z"が追い越していて、合の後の観測では消失しています。

C大赤斑とdark streak

大赤斑から前方のSTrZ(南熱帯)に細いdark streakが長さ70度ほど伸びています(画像5)。さらにII=85度には小さな白斑があり、ゆっくりと後退しています(画像1右の△マーク)。


画像5 2006年5月18/19/20日の木星展開図(拡大)

●第30回木星会議(高松)の案内

今年の木星会議は、9月9/10日に香川県高松市で開催されます。今シーズンの観測のまとめや研究発表などが予定されています。惑星観測に興味のある方の参加をお待ちしています。
日時:9月9日(土)13時−10日(日)12時
会場:高松市生涯学習センター
参加申込みは瀧本郁夫氏まで(http://homepage3.nifty.com/yuuseijin/J-d.htm)

前号へ INDEXへ 次号へ