天文ガイド 惑星の近況 2008年4月号 (No.97)
安達 誠、堀川邦昭

昨年の暮れに接近を終えた火星は、徐々に地球から離れつつあり、代わって土星が間もなく衝を迎えます。一方、明け方の東天には木星が姿を現しています。

火星

新年になり火星のLsは10°過ぎとなりました。北半球は春分を少し過ぎた位置にあります。これからは北極冠が次第に小さくなってくる時期に入りますが、火星は地球からはちょうど真横を向き、非常に細くしか見えない状態となっています。気流が悪いと、肉眼では確認することすらおぼつかない状態で、画像でもはっきりした姿が分かりません。画像の撮影をしている人は、北極冠の形状に注意して画像を撮像してほしいと思っています。

1月の大きな傾向は次のようになっています。

  • 北極冠のフードは晴れて、北極冠が鮮明に見えるようになってきた。
  • 北極冠にはダークフリンジが細くはっきりと観測できるようになった。
  • 南極は広い範囲で白雲に覆われるようになった。
  • 夕方の低緯度地方には夕霧が頻繁に見られるようになった。
  • 青画像では、もやのない晴れ渡った地域が観測されるようになった。

北極地方には北極を取り巻くように暗いバンドがありますが、ダークフリンジはそれのことではなく、北極冠の縁にできる黒いシャープなバンドのことを言います。画像ではなかなか表現できない難しいものです(安達のスケッチ・図1)。スケッチでは、極冠を縁取るように描かれたものです。画像で記録するには北極冠に露出を合わす必要があること、また気流もよくないと写りません。この時期、何とかこの様子の記録された画像がほしいと思っています。

[図1] 2008年1月6日 12:25UT

LS=14° CM=296° 観測:安達誠(京都府、30cm)
北極冠周辺にダークフリンジが見られる。

南極地方は広い範囲が白雲に覆われるようになりました(図2)。このままこの傾向が続き、南極冠の形成に向かうのか、それとも晴れたり曇ったりを続けるのか注目されます。この雲は経度によって大きな変化を見せていますから、追跡すると面白い記録が取れることと思います。

[図2] 2008年1月19日 12:49UT

LS=20° CM=186° 撮像:風本明(京都府、31cm)br>南極に白雲が広がり白くなっている。

1月に入り、青画像で記録されたものを見ると、非常に暗く写る部分が出ています。この地域をカラー画像で見ると、本誌面はカラーではないため分かりにくいのですが、赤っぽく記録されています。この様子は極冠が小さくなり始めた時期に毎回出現しています。これは、昨年の10月にダストが多い状態でオリンピア山が赤く記録されたことと同じ理由によるものと考えられます。下降気流のできている場所に相当するものと思われます(図3)。地球で言えば高気圧に相当します。乾いた空気の塊であるため、青画像では黒く写ります。

1月の特徴的な傾向としては、低緯度で夕方に相当する地域に、夜の側から風が自転とは反対の方向に流れ込み、夕霧を形成していることです。これは地表に近い高さで起こっているものと思われます。

[図3] 2008年1月17日 00:29UT

LS=19° CM=40° 撮像:パウロ・カスキーニャ(ポルトガル、35cm)
左は青画像。黒い部分が可視光でも黒い部分に重なり、はっきり模様が観測される。

木星

2008シーズンが幕を開けました。シーズン最初の観測は1月16日の福井英人氏(静岡県)によるものでした。合から24日目の観測です。

厳しい寒さが続いていて国内の観測条件は最悪ですが、海外から寄せられた画像で木星面の概要を把握することができます。図4は阿久津富夫氏の画像(観測地:フィリピンのセブ島)で、中央右側に大赤斑が見えています。昨年のSEB攪乱の影響を免れ、現在でも赤みの強い斑点として明瞭です。攪乱で復活したSEBは二条に分離し、南組織が濃く顕著です。北半球のNEBは昨シーズン同様、南縁に沿って青黒い暗部が見られ、EZに向かってフェストゥーンが伸びています。ベルトの北縁にはバージと呼ばれる暗斑がいくつか形成されているようです。NTBは昨年発生したNTBsのoutbreakによって濃いベルトに復活していますが、赤みが強いのが印象的です。

他の画像で見ると、体系II:200〜300°台のSEBsはかなり凹凸があり、STrZに拡散して暗柱のように見えるものもあります。昨シーズン循環気流によりSEBsの暗斑が次々とSTBnへUターンした南熱帯攪乱(STrD-1)はII:270°付近にあると予想されますが、上記の暗斑のどれに相当するか、まだ確認できていません。周囲のSTBnの緯度には循環気流の活動をうかがわせるような模様はまったく見られません。

[図4] 2008年2月8日 21:28UT

I:24.4° II:93.1° 撮像:阿久津富夫(フィリピン、35cm)

土星

先月号でお伝えしたSTB北縁の白斑は、今月も阿久津氏などの画像で確認することができます。STBの北縁には2年前の2006年1月にも明るい白斑が出現しました。この緯度帯は白斑が出現しやすい場所のひとつなのかもしれません。

2月10日の柚木氏の画像には、北半球の高緯度に白点が捉えられています(図5)。これは、土星本体を経過中のテティスで、その脇には影も見られます。環の傾きが小さくなったため、このような珍しい現象が見られるようになっています。土星本体の白斑や暗斑と間違えないよう、注意が必要です。

[図5] 2008年2月10日 14:23UT

I:318.9° II:243.8° 撮像:柚木健吉(大阪府、20cm)
白線の位置が経過中のテティスとその影。

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