@大赤斑と赤色斑点の会合(その後)
まず、7月初めに大赤斑を通過した南熱帯(STrZ)の赤色リング斑点(LRS)のその後
についてお伝えします。
大赤斑の南側を引き裂かれながら通過したLRSは、数日後には大赤斑の前方で再
凝集して、LRS remnant(レムナント:なごりの意味)と呼ばれる白斑となりまし
た。LRS remnantは、元のLRSと比べて大きく拡散していて、赤みはほとんどなく、
周囲の暗いリング状の取り巻きも失われていましたが、メタンバンドで明るく写
る「メタンブライト」な特徴は残っていました。LRS remnantと大赤斑の間には
暗いストリークが形成されて、LRS remnantがゆっくり前進するにつれて、スト
リークも長くなって行きました。しかし、間もなくLRS remnantは大赤斑前方10°
付近で停滞するようになり、7月15日頃には少し北へ移動して、後退運動に転じ
てしまいました。そして、今度は前方から大赤斑に衝突して、取り込まれてし
まったようです。大赤斑前方にあったメタンブライトな領域も、7月後半には完
全に消失してしまいました。
大赤斑は南側を青黒いアーチで囲まれ、内部の明るい赤斑孔(Red Spot Hollow)
の状態ですが、中心に赤いコアが見られます。アーチは前方に飛び出して、短い
ストリークとなっています。7月中は赤斑孔の北縁に沿って、会合の影響と思わ
れる青黒い乱れた暗部が見られましたが、8月には普段の状態に戻ったようです。
経度は、II=128.0°(15日、風本氏)と少し後退しました。これが、LRSとの会合
の影響なのか、それとも大赤斑固有の動きなのかは、ちょっと判断がつきにくい
ところです。
もうひとつの赤色斑点であるBAは、大赤斑の南を通過して前方へ抜け、II=104.3°
(13日、福井氏)まで前進しています。赤みはかなり薄れていますが、大型の白斑
として目立っています。BAの後方にあった短い南温帯縞(STB)の断片は、暗斑の
連鎖のようになって大赤斑の南を通過しています。その後方、II=155.5°(1日、
熊森氏)の南温帯(STZ)には大きな暗斑があります。中心に白い核があり、まるで
さかなの目玉のようですが、8月の画像では核が失われて、黒い一様な暗斑とな
っています。STBはBAの前方でも50°に渡って北組織が濃くなっていて、その前
方のII=20°付近には、3つの小暗斑が見られます。
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[図1] 大赤斑とLRS remnantの再衝突 ▲がLRS remnantの位置、19日には判別できなくなっている。 撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、熊森照明氏(大阪府、20cm)、福井英人氏(静岡県、35cm)、 柚木健吉氏(大阪府、26cm)、Guilherme Grassmann氏(ブラジル、25cm) |
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A活動的な南赤道縞(SEB)
今シーズンの木星面は、昨年の全球的な活動が一段落して、落ち着いた状態にあ
ります。赤道帯(EZ)も明るくなってフェストゥーン(festoon)などの模様がほと
んどなくなってしまったため、全体として変化に乏しい印象を受けます。しかし、
唯一SEBだけは活動的で、ベルトの内部は乱れて混沌とした状態にあり、細くな
った北赤道縞(NEB)に比べると、SEBは2倍近い太さがあります。
目を引く模様として、II=300°から後方のSEB南縁に沿って見られる青黒いスト
リークがあげられます。6月頃に形成されたようですが、最近では大変目立つ模
様に発達しています。ストリークは不規則な暗斑の連鎖で構成され、断片的にな
っている所もありますが、大赤斑付近まで続いていて、全長170°に達します。
前端付近ではやや緯度が高くなって、STrZの北部に横たわっているので、一見す
ると、この経度からSEBが急に幅広くなっているように見えます。大赤斑前方に
出現して急速に前方へ伸びていくストリークよりも緯度が低いため、今のところ
体系IIに対してほとんど動いていませんが、さらに南側に発達するとSTB北縁
(STBn)のジェットストリームに捉えられて、急に前方に向かって伸びていくこと
も考えられます。
SEB内部の2ヵ所で発生したmid-SEB outbreakは、まだ活動が続いています。最初
のoutbreakは、II=300〜30°の範囲で、もう一方は大赤斑後方からII=230°の間
でSEB北側に乱れた明帯を形成しています。以前に比べると顕著な白斑は少なく
なりましたが、どちらかと言えば、前者の方が明帯の幅が広く、活動的な印象を
受けます。上記の2つの領域の後端付近から後方では、SEB中央部に濃い暗条が発
達しており、後方ほど緯度が高くなっているのは、過去の活動でも見られた特徴
です。ベルト南縁を高速で後退する暗斑は確認されていませんが、SEBはかなり
高い活動レベルにあると言えるでしょう。
[図2] 8月14日〜15日の全面展開図 目盛りは体系II。右端の黒点はエウロパの影。 撮像・作成:永長英夫氏(兵庫県、30cm)、筆者改編(拡大) |
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[図3] SEB南縁のストリーク 2008年8月4日 14:04UT I=146.2° III=299.0° 撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm) |
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