天文ガイド 惑星の近況 2008年11月号 (No.104)
堀川邦昭

木星は9月8日に留となり、逆行から順行に転じました。 南天低いため、夜半前には早々と沈んでしまいますが、まだまだ観測の好機にあります。 夏場のような好シーイングは望めませんが、今後も日没後の友として、晩秋まで眺めることができるでしょう。

木星

@北赤道縞(NEB)のリフト活動

NEBでは時々、ベルト内部に白雲が湧出して傾いた明部を形成することがあり、ベルトの裂け目=リフト(rift)と呼ばれます。 南赤道縞(SEB)でも、白雲の湧出活動であるmid-SEB outbreakが見られますが、@発生源が明確でなく、A領域全体が前進、B白斑の多くは小さく短命など、活動パターンが異なります。 今年のNEBはベルトが細くなって比較的静かでしたが、5〜6月のリフト活動に続き、8月から9月にかけて、3つのリフト領域が次々に形成されています。 ここでは、それらの状況についてまとめます。

[図1] 発達したNEBのリフト領域
2008年8月31日 10:30UT I=319.4° II=267.3°
撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


最初のリフト活動は5月中旬に発生しました。 NEB南組織(NEBs)のすぐ北側にあった小白斑から白雲が湧出して、東西に伸びたリフト領域を形成したのです。 この領域は、体系IIに対して-4°/dayという高速で前進しながら伸長し、ひと月後の6月半ばには、長さ約40°の細長い明帯に発達しました。 内部には輝度の高い白斑がひとつだけ見られることが多く、乱れ方は小さかったようです。 このリフトは7月初めまで観測されましたが、その後は拡散消失してしまいました。

今シーズン最大規模となった2番目のリフト活動は、7月下旬にNEBsのすぐ北側に出現した白斑が発生源となりました。 小さいながら輝度のある白斑で、体系IIに対して-4.4°/dayという大きな前進速度を持っていました。 7月27日前後には一時的に東西に伸びたリフト状に変化したものの、すぐに元の白斑に戻ってしまったのですが、8月5日になって白斑がII=37.8°(Go氏)に達すると、前方南側−後方北側に傾いた明帯が出現し、典型的なリフト領域が形成されました。 領域全体は、元の白斑に近いスピードで前進しながら、NEB内の速度勾配に従って赤道側はより速く(体系Iに近い)、極側はゆっくりと動くことで、経度方向に急速に伸長、5日に15°だった明帯の長さは、15日に35°、24日には約50°に達しました。 これに合わせてリフト内部には、輝度の高い白斑がいくつも出現し、乱れた明帯に成長しています。 9月中旬のリフト領域は、II=180°付近を前端とする全長90°の大規模な模様となりましたが、一時に比べて内部の乱れ方は小さくなり、しだいに沈静化しつつあるようにも見えます。

8月下旬には、別のリフト領域が出現しました。 これもNEBsの小白斑が、23日以降、リフト領域に変化したもので、9月10日のGo氏の画像では、II=30〜50°のくねった明部に発達しています。 ただし、このリフトは細いひも状の明部で、前述のリフトよりも規模が小さいように思われます。 さらに、9月に入ってもうひとつのリフトが出現しています。 前の3例と同じように、NEB南部の小白斑が発生源となっていて、11日に大赤斑の真北を過ぎる頃から東西に白雲が流れ出して、リフトに変化しています。 今後、他のリフト同様の発達をするものと期待されます。

これらのリフト活動には、いくつかの共通点があります。 まず、リフトの形成に先立って出現したNEBs北側の小白斑が、発生源となっていることがあげられます。 白斑はリフト形成の2週間くらい前に出現しているようで、NEB中央よりもやや北側に位置しています。 また、BAAのRogers氏は、リフト活動の始まりが同じような経度範囲で起こっていると、興味深い指摘をしています。 今シーズンのリフトはどれも大赤斑の真北からやや前方で発生しており、2番目の大規模なリフトも、7月末に最初にリフト化したのは、同じ経度領域でした。

[図2] NEBのリフトの発達
体系IIに対して-4.5°/dayで前進する特殊経度にて作成。カッコ内は白線部分の経度。


A大赤斑と周辺の状況

LRSとの会合によって南側にアーチが発達した大赤斑は、その後、典型的な赤斑孔(Red Spot Hollow)と化してしまいました。 周囲を取り囲むアーチはさらに顕著になり、内側のシャープな輪郭は大赤斑本体そのものです。 中心部の核は残り、全体としては赤みもありますが、暗色模様で囲まれているため、内部はかなり明るく見えます。 経度はII=128.0°(9月11日、阿久津氏)で、少しずつ後退しています。 大赤斑はHollow化すると、少し前進する傾向がありますが、今のところそのような兆候は見られません。

当初、アーチの先端は短いストリーク(dark streak)となって、前方の南熱帯(STrZ)に突き出していましたが、8月20日以降、急速に伸長して注目されました。 9月初めには、長さ約30°の顕著なストリークに発達しています。 その後もストリークは急速に成長すると思われたのですが、予想に反して9月は成長速度が鈍り、9月半ばでも先端はII=75°付近に止まっています。

[図3] 大赤斑前方のストリーク
▲はストリーク先端の位置。
上) 2008年8月18日 10:23UT I=62.7° II=109.9° 撮像:永長英夫氏(兵庫県、30cm)
下) 2008年9月11日 10:01UT I=237.3° II=101.4°撮像:Anthony Wesley氏(オーストラリア、30cm)


一方、前号で取り上げたSEB南組織(SEBs)のストリークは、前端がII=280°付近に進んでいます。 前進のスピードは遅く、南温帯縞北縁(STBn)のジェットストリームには捉えられていないようです。 前端から40°くらいは、SEBsから完全に分離して顕著ですが、後方では融合しており、所々途切れて暗斑の連鎖のようになっています。 大赤斑の前方まで続いているようですが、アーチ前方へ伸びるストリークとは連結していません。

Bその他の状況

BAは9月3日にII=92.6°(米山氏)にあり、赤みのある明るい白斑として見られます。 前方では、数十度に渡ってSTBnがストリークのように濃く、そのさらに前方には高速で前進するジェットストリーム暗斑が見られます。 南温帯(STZ)の目玉暗斑は、大赤斑の南に差し掛かっています。 相変わらず顕著で、中心の白い核も健在です。 2つのmid-SEB outbreakのうち、大赤斑後方のものは、9月に入って急激に衰えてしまい、大赤斑後方の定常的な活動域(post-GRS disturbance)に戻ってしまったようです。 NEB北縁(NEBn)では、全周で6個のバージ(barge)と、3つの湾入が認められます。 このうち、II=286.2°(9月12日、福井氏)の湾入は長命な白斑WSZによるもので、北熱帯(NTrZ)に白斑本体がぼんやり見えています。

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