天文ガイド 惑星の近況 2008年12月号 (No.105)
堀川邦昭

木星は10月6日に東矩となりました。日没前後に南中となりますが、赤緯が低い ため、高度を失うのが早く、20時頃には南西天低く傾いてしまいます。一方、 9月4日の合を過ぎた土星は、明け方の東空に昇るようになっています。これから 冬に向かって、夜空の主役が交代する時期となりました。

木星
北赤道縞(NEB)のリフト活動は、当観測期間も続き、8月初めに発達し始めたリフ ト領域(Rift-2)は、長さ100°を超える長大な攪乱領域となりました。赤道帯 (EZ)よりの先端部分は、すでに木星面をひと回りして、なおも前進を続けていま す。8月末に出現したリフト領域(Rift-3)も、細長く発達しながら一周して、ま もなく発生経度(II:120°付近)に戻ってきます。また、9月に発生したもうひと つのリフト領域(Rift-4)は、II:300°台へと進み、上記の2つのリフトと同じよ うな、乱れた領域となっています。すぐ後方には長大なRift-2が迫っており、 Rift-4の後端部とRift-2の先端部はオーバーラップしつつあります。これら3つ のリフト活動によって、NEBは大部分の経度でベルト中央部に乱れた明帯が形成 され、二条に分離して見えます。

[図2] 発達したNEBのリフト
2008年9月16日 11:12UT I=349.6° II=175.3° 撮像:Anthony Wesley氏(オーストラリア、33cm)


8月下旬、大赤斑南側のアーチ先端から出現したストリークは、9月初めにはII: 90°のBA付近に達しましたが、その後は成長速度が鈍り、BAにトラップされたか のように、相対位置はほとんど変化しないままでした。しかし、9月20日以降、 再び伸長し、10月2日の阿久津氏の画像では、先端がII:42.1°に達しています。 この領域には、元々南赤道縞(SEB)南縁に沿って暗斑の連鎖のようなストリーク が存在していましたが、新しいストリークはこれと置き換わっているように見え ます。今後も、前方の古いストリークとの入れ替わりが進んでいくのではないか と思われます。

[図1] 赤斑孔前方に伸びるストリーク
2008年10月12日 10:11UT I=94.8° II=82.4° 撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


SEBではII:270〜10°の範囲でmid-SEB outbreakの活動が見られます。以前に比 べると、明帯はやせ細って狭くなり、内部の白斑も不明瞭になっています。もう ひとつのoutbreakが見られた大赤斑後方では、白斑はほとんど見られなくなって、 ボンヤリした明帯が残るだけとなっています。

オレンジ色が顕著で幅広く二条になった北温帯縞(NTB)では、最近、北組織 (NTBn)に青みを帯びた乱れが目立つようになっています。通常、この緯度の模様 は体系IIに対して後退運動を示しますが、今のところはほとんど動いていないよ うです。

土星
細い環を見るなら年末年始!

明け方の東空には土星が姿を現しています。合からまだひと月ちょっとしか経っ ていませんので、まだまだ条件は悪いのですが、観測できなかった3ヵ月の間に、 環がずいぶん細くなったことがわかります。来年は13年ぶりに環の消失現象が起 こりますので、このまま徐々に細くなって・・・、と思いがちですが、実際は ちょっと違います。

[図3] 細くなった土星の環
2008年10月15日 20:42UT I=29.1° III=276.0° 撮像:熊森照明氏(大阪府、20cm)


環の消失は、土星の環の平面が太陽を通過する時(環に光が当たらなくなる)と、 地球を通過する時(環が薄いので見えない)に起こります。後者は、土星と地球の 位置関係によって、1回起こる年と3回起こる年がありますし、両者の起こるタイ ミングによって、太陽光の当たらない環の裏側を見ることができるケースがあり ます。この場合、環は真っ暗にはならず、カシニの空隙や半透明なC環の部分が 明るく見えることが知られています。来年、環の平面が太陽を通過するのは8月 11日で、地球の通過は9月4日の1回だけです。ただし、土星は9月17日に太陽との 合を控えており、日没後のわずかな時間見えるだけなので、細い環の有無を確認 することは、困難と思われます。残念ながら、今回は極めて条件が悪いのです。

図4は、土星の環の傾きをグラフに表したもので、左下がりの真っ直ぐな線は、 太陽に対する環の傾きです。地球は環の平面に対して約27°傾いた軌道面を回っ ていますので、サインカーブのような曲線を描きながら変化して行きます。今年 の秋から暮れにかけて、環の傾きは徐々に減少し、年末には-0.8°と極小になり ます。しかし、その後はしだいに環が開いて行き、衝となる3月には-2.6°、5月 半ばには-4.1°と極大に達し、現在よりもむしろ傾きが大きくなってしまいます。 再び環の傾きが小さくなる夏場には、前述のように条件が悪くなってしまいます ので、環の詳細を観察するには適さないでしょう。したがって、細くなった環を 観察するのは、今年の終わりから来年の初めにかけてが最適となります。

[図4] 土星の環の傾きの変化
地球に対する環の傾きは、2008年末に一旦、最小となる。


冬場はシーイングが悪く、惑星面の細部を観察するには向かないのですが、細く なった環を見ることは十分に可能です。土星は西矩を過ぎたばかりで、夜半前に 東の空に昇ってきますので、年末年始は少し夜更かしをして、串団子のような土 星を堪能してはいかがでしょうか。

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