天文ガイド 惑星の近況 2009年4月号 (No.109)
堀川邦昭

3月の衝を控えて、土星が見ごろとなっています。14年ぶりに環が消失する年に 当っているため、普段は見ることのできない現象が捉えられています。一方、夕 暮れの西天では、間もなく最大光輝を迎える金星が高く輝いています。徐々に欠 け具合が大きくなって、三日月のようになりつつあります。

ここでは1月後半から2月前半にかけての惑星面についてまとめます。木星は1月 24日に合となったため、今回はお休みです。なお、この記事中の日時は、すべて 世界時(UT)となっています。

土星

12月末に極小となった環の傾きは、徐々に開きつつあり、2月半ばには-1.8°と なりました。環の短径は1.4秒まで大きくなり、見かけの形状も細い線状から、 再び南北方向のふくらみがわかるようになっています。解像度の高い画像では、 本体の東西に環の内側の空間が細く見えていますし、カシニの空隙もかなりはっ きりとしてきました。

土星本体では、今月も頻繁に白斑や暗斑が観測されています。1月初めに出現し た赤道帯(EZ)北部の小白斑は、当観測期間も明瞭で、1月23日の阿久津氏とGo氏 の画像に、2月10日の熊森氏の画像で確認することができます。白斑は比較的輝 度があり、環の影のすぐ北側に貼りつくように位置していて、経度は23日にI= 100°、10日にI=125°付近と後退傾向を示しています。1月初めの出現時は、I= 85°付近にありましたから、ひと月で約40°後退したことになり、移動速度は +1°/dayを超えます。

もうひとつ気になる模様のEZ南部の暗斑ですが、こちらも当観測期間に何度か観 測されています。ただし、観測される経度は大きくバラついていて、1月23日に 阿久津氏とGo氏が捉えたものはI=120°付近、2月2日に柚木氏が観測したものは I=255°付近、さらにGo氏は10日にも撮像に成功しており、経度はI=305°付近で した。形状はどれも横に伸びた暗斑で、高解像度の画像では、木星のフェストゥ ーン(festoon)のように、EZ中央に向かって細く条が伸びているように見えるも のもあります。ひとつの模様としては、経度変化量が大きすぎるので、同じよう な模様が複数存在するのかもしれません。ところが、これらをIII系で換算する と、2日の柚木氏によるものを除き、どれも265°前後となります。1月7日に熊森 氏が最初に観測した暗斑も、III系では260°くらいになりますので、この暗斑は EZにありながら、III系に乗っている珍しい模様という可能性もあります。今後 の観測で明らかにしたいものです。

[図1] 土星面を経過中のタイタンとEZの白斑と暗斑
2009年1月23日 17:27UT I=107.9° III=248.5° 撮像:阿久津富夫氏(フィリピン、35cm)


今シーズンは、衛星現象が度々観測されていますが、当観測期間もタイタンの土 星面経過が、1月23日と2月8日の2回起こりました。このうち、2月8日のGo氏の画 像では、タイタンが土星の縁から離出する様子が捉えられています。面白いこと に、土星の周辺減光中のタイタンがドーナツ状に見えます。時期的に考えて、タ イタン本体と影が重なっているわけではないようです。ガリレオ衛星などは、木 星の周辺部では明るい輝点となりますが、タイタンは濃い大気のせいで、タイタ ン自身に強い周辺減光が生じているためと推察されます。また、1月23日の阿久 津氏の画像を見ると、メタンバンドの画像に経過中のはずのタイタンが写ってい ません。これは、タイタンがメタンを含む大気を持っているために、メタンバン ドの波長が吸収されてしまうためであると、阿久津氏が指摘しています。メタン 画像で輝いて見えるガリレオ衛星とは対照的です。

[図2] タイタンの離出
2009年2月8日 撮像:Christopher Go氏(フィリピン、28cm) 左の画像で周辺減光中のタイタンがリング状に見えるのに注目。


金星

可視光ではまぶしく輝くだけの金星面ですが、紫外光で観測すると、V字を横に したような模様のパターンが現れます。金星の自転周期は243日もあり、しかも 地球とは逆方向に自転していますが、このパターンは、わずか4日で金星を回っ ていることがわかっていて、金星のスーパーローテーション(4日循環)として知 られてます。発見したのは、フランスのアマチュア、シャルル・ボワイエで、 1957年のことです。当時は、自転の遅い金星で、大気だけが高速で循環している はずがないとして、受け入れられなかったそうですが、後にアメリカの探査機マ リナー10号によって、正しいことが証明されました。スーパーローテーションを もたらすメカニズムについては、まだ解明されていませんが、最近、土星の衛星 タイタンでも同じような現象が発見され、注目されています。

ところで、現在のアマチュアの撮像技術を持ってしても、スーパーローテーショ ンを捉えることは意外に難しいようです。というのは、わずか4日で金星をひと 回りするので、模様の変化が激しく、1日も経つと同定できなくなってしまうた めです。適切な時間間隔は5時間程度とのことで、観測には国際協調が必要にな ります。実際、月惑星研究会に報告された国内外の画像を調べると、いくつかの 組合せで、スーパーローテーションではないかと疑われる模様が見つかるようで す。

また、難しさのもうひとつの側面として、一般の光学製品は紫外光をカットする 仕様になっていることがあげられます。コーティングは、そのよい例です。また、 UVフィルターでもメーカーによって特性の違いや赤外漏れの問題があるので、模 様を同定するには、器材や撮像条件を揃える必要があるそうです。

月惑星研究会では、上記の課題について、海外のアマチュアにどのような呼びか けができるか、議論が進められています。2010年には日本の金星探査機、 PLANET-Cが打ち上げられる予定ですので、地上からの支援観測として、アマチュ アが協力できれば、素晴らしいことでしょう。

[図3] 最近の金星面
2009年2月11日 左) 7:43UT 紫外光 右) 7:52UT 赤外光 撮像:柚木健吉氏(大阪府、26cm)


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